「雉」北陸地区のブログ

「雉」句会の活動を公開しています

俳誌「雉」11月号から

主宰俳句
         燈 下 親 し
                    田島 和生
 
    冷やかに真鯉の黒目山瀬かな
    露草へしぶきて田水走りたる
    川上へをりをり吹かれ草の絮
    秋蝉や背山の杉は枝打たれ
    稲扱くや村の一番上の家
    脳天へ初鵙の声一度きり
    戦闘機秋天擦ってかき消ゆる
    燈火親しインク飛び散る古襖 

      同人作品評(9月号)   長嶺 千晶
家持の相聞羨し青山河   石黒 哲夫 恋多き家持を巡る女性たちの相聞歌の数々には、それぞれの女性の性格が感じられて興味深いものがある。そんな万葉の大らかな時代へ憧憬もきっと作者にはあるのだろう。「青山河」の季語が万葉の時代を感じさせている。

のど反らし撥打つ太鼓祭くる   佐藤 尚夫 太鼓の音に祭の華やぎが感じられる。「のど反らし」の写生によって見事な撥捌きまで彷彿とさせ、男衆の威勢の良さの的確な描写になっている。太鼓の連打と共に祭も最高潮を迎えるのだろう。力強い一句である。


      新同人作家 競詠

    豊の秋   山岸 昭子 (富山)
 台風の逸れ立山の空青し
 豊の秋戦車のやうなコンバイン
 スカーフの案山子もありて峡ぐらし
 新幹線音なく過ぎる蕎麦の花
 柿熟れて昔のままに曲り道

 
    能登    海野 正男 (金沢) 小鳥来る柱に残る子の背丈
 新米の噴きこぼれては薪燠る
 谿深く通草の蔓にとどかざる
 唐辛子乾びて赤の艶増せり
 能登荒磯穭穂なびく千枚田


    故郷春秋  本多 静枝 (金沢)
 ギヤマンの神門仰ぐ春着かな
 春川の水音通ふ徹の句碑
 篠笛の音に酔ひしれる月今宵
 白山を背の山小屋やうす紅葉
 田の神を迎へ賑はふ冬座敷


     青木 和枝 句集 『白山茶花』特集

肩組みて試歩を励ます薄暑かな
急患の名札を書きて筆始
頬かむりはづさぬ農夫退院す
蜂の来て湯舟の縁の湯を舐むる
一匹になってしまひぬ金魚玉
兜虫巴投げして戦へり
孕み猫霰の跳ぬる水を舐め
雪に腹すつてよぎるや孕み猫
倶利伽羅や紅葉の谷へ施餓鬼米
除雪夫に乾きし軍手届けたる
雪卸し窓より運ぶ握り飯

細見綾子先生 平成9年没  綾子忌の雨に色づくくわりんの実
沢木欣一先生 平成13年没  訃報聞く越に白鳥来たる日よ
新田祐久先生 平成15年没  冬の月ぽつかり浮かぶ別れかな
林 徹 先生 平成20年没  徹句碑に色をつくして石蕗の花
泊 康夫先生 平成20年没  康夫忌や白山茶花の一つ咲き
中山純子先生 平成26年没  もろ花に埋もれ涼しく旅立たれ


     祝 巻頭   紅 頬 集

宮崎 惠美 (金沢)

 休診の医師の持ちゆく鮎の竿
 小窓から山羊の顔出す夏の暮
 ゆつたりと二羽の鳶や雲の峰
 ハングライダー秋天高く吹かれをり
 菩提寺や人参木に黒揚羽

     紅 頬 集  秀句・佳句     田島 和生 主宰
小窓から山羊の顔出す夏の暮   宮崎 惠美 小屋の小さな窓から、白い髭を垂らした山羊が顔を出して外を眺めている。昼の熱気がまだ残る夏の日暮れである。「秋の暮」では、芭蕉の〈此道や行人なしに秋の暮〉に見られるような寂しさ、孤独感があるが、夏の日暮れは明るく、まばゆさがある。まぶしげに目を細める老爺のような山羊の顔が想像され、妙味に溢れている。

報せたき事二つ三つ墓洗ふ   野崎 郁男 お盆を前に、墓を洗いながら思う。お墓の中の人に「報せたいことが二つ、三つあるなあ」と。亡くなった人が誰かは判らないが、、元気な時と同じように「報せたき事」と詠んでいる点が面白い。それも、「報せた」ではなく、これから報せるかどうかも分からない。不思議な味わいを感じさせる作品である。


以上、俳誌「雉」11月号より抜粋いたしました。