爽やかに灯ともし頃を神楽坂 田島 和生
同人作品評(12月号) 国枝 隆生
炎天へくの字くの字に蝶のぼる 太平 栄子
一般に蝶の飛ぶさまは不規則である。しかし作者が見ている蝶は〈くの字くの字〉に登っていると把握した。しかも炎天に向かっていく力強い蝶である。作者は〈くの字くの字〉から蝶の生態に迫った句として仕上げた。
高きより忽ち晴れて海の霧 西畠 匙
筆者も掲出句と同じ体験をしたことがあった。海とか海峡に近い町では冷気がいきなり押し寄せ、瞬時に霧に覆われる。しかしそれもつかの間、たちまち晴れる。この句のポイントは〈高きより〉の観察である。町が霧に覆われたかと思うと、真上を見ると、すでに青空が透けて見える。これが〈高きより忽ち晴れて〉の実感である。体験に基づいた句は表現に揺るぎがない。
濡れ縁を鋼の音の銀やんま 谷口 和子
真夏の盛りに作者は濡れ縁から飛び立つ銀やんまに気付いた。それも鋼を震わせるような音によって気付いたのである。〈鋼の音の銀やんま〉の比喩により、大ぶりな銀やんまの力強さを詠んでいる。この句も日常生活から比喩の技法を使うことにより、詩情を高めている。
第21回 雉 賞 発 表
雉賞 大片 紀子 さん 「氷室」
次席 堀向 博子 さん 「島岬」
佳作
一席 二宮 栄子 さん 「月上る」
二席 田中 忠夫 さん 「在原村」
三席 浜田 千代美 さん 「日焼子」
以上、おめでとうございます。
紅頬集 秀句 佳句
葛の蔓ところどころに蝉の殻 度山 紀子
ふり向けば畳にいとど髭を振る 野澤 多美子
顔に手を当てて母泣く秋の暮 野崎 郁雄
おめでとうございます。
以上、俳誌「雉」12月号から抜粋いたしました。