「雉」北陸地区のブログ

「雉」句会の活動を公開しています

俳誌「雉」7月号から

主宰俳句
      由布岳水張り初むる棚田かな     田島 和生


     同人作品評(5月号)     田中 春夫

流れ藻の張りつく礁涅槃西風     吉田 泰子
 ちぎれ漂う藻が、岩礁にしがみつくように張り付いている。季節は釈迦の入滅した陰暦2月15日の頃。この頃に吹く季節風を涅槃西風というのだが、西方浄土から現世に向けて吹く風という連想も働く。現世に生きるわれわれの姿も、この句に詠まれているような、流れ漂う藻のようなものであると深読みを誘われるところがよい。早春の岩礁の風景を詠みながら、季語の力によって重層的な意味をもつ点、俳句の特性を活かした作品である。

芹引くに薄き泥立つ流れかな     西畠 匙
 芹を得ようとして掴んで引くと、その根がつかんでいた泥が水中に軽く湧き立ったのである。その瞬間をしかと切り取った、焦点の鮮やかな作品。「薄き」の措辞からわずかな泥が流れに従って立ち上がったこと、また、それが見て取れるほど流れが澄んでいることも伝わってくる。芹という繊細な食材の自生する場所の清らかさと、芹自体のはかなげな軽さが、一瞬の動きによって印象的に表現されている。


     頬 紅 集  秀句・佳句     田島 和生 主宰  

津浪痕瓦礫の下の土筆かな     度山 紀子
 東北大震災の被災地で支援活動した時に詠むとある。「瓦礫の下の土筆」で、新たな命を鮮やかに捉えた。〈パンジーの鉢吊る仮設住まひかな〉〈線量計鳴り出す相馬芽吹き山〉なども実感があり、大変いい。

行く春や歯科医に口を開けつ放し     海野 正男
 虫歯が痛み、歯科医の治療を受ける。医者の言うままに口はいつまでも開けたままである。ぽかんと口をあけたまま、春も行く。劇画のような自画像で、面白い作品である。

   各地だより ―北から南から―
 「井の中のかわずの記」 生田 章子さんが、寄稿されています。立山を望む毎日の生活からの風景です。
どうぞご覧くださいませ。

 以上、俳誌「雉」7月号より抜粋いたしました。