主宰俳句
泰山木咲くや白磁の如く割れ 田島 和生
同人作品評(6月号) 田中 春夫
山越えの雲切れ切れに鯉のぼり 石黒 哲夫
流れる雲が山を越えるときに、山脈に堰かれて稜線に平行な縞模様をつくることがある。雲の白さとその間に見える空の青さ。心地よい風が絶え間なく吹く空に、ゆったりと泳ぐ鯉幟。自然の体景に鯉幟を配することで、いっそう鯉幟が雄渾なものと感じられよう。「風」「泳ぐ」といった措辞を用いずに、風を孕み力強く泳いでいる鯉幟の姿が真直ぐに伝わってくる。
涅槃図に鮮やかな空ありにけり 小室 登美子
俳人は描かれている涅槃図の中に、様々なことを発見する。作者は多くのものが嘆いている背後の空が、鮮やかに描かれていることを発見したのだ。考えてみれば、涅槃図そのものが鮮やかな色彩の絵の具で描かれていて、悲嘆に暮れる衆生の心情にそぐわない感じがある。今までも誰もが注意を向けなかった空の描かれようをズバリと詠んだところが素晴らしい。
道問はれ彼岸桜の寺を指す 中山 ち江
どこへの道を尋ねられたのだろうか。句に詠まれている彼岸桜の咲く寺への道なのか、それとも、その寺はあくまで目印であって、また別の場所なのだろうか。作者のいる位置は見晴らしによい場所で、目印になるものと言えば、今を盛りと咲いている彼岸桜以外ないかのようだ。それを際立たせる解釈としては、どこへの道を教えるも、桜の寺を第一の目的と指し示すことになる、と解釈するのがふさわしい。遠くより眺める彼岸桜の美しさが日常の出来事を通して巧みに表現されている。
頬紅集 秀句・佳句 田島 和生 主宰
五月闇佛に踏まれ天邪鬼 古西 純子
梅雨時は部屋の中も暗い。お堂の四隅に、いかめしい持国天や増長天などが安置され、どれも天邪鬼を踏みつけている。鬼とはいえ、五月闇の底に踏まれた姿は哀れである。五月闇の季語をよく生かし、妙味に溢れている。
その他、
「第二十回「雉」同人会総会記」 小林 れい子
「各地だより〜北から南から〜」 『美しき川』 海野 正男
どうぞ、読みごたえのある文章をお楽しみください。
以上、俳誌「雉」8月号より抜粋いたしました。