田島 和生 主宰 俳句
巌より源泉しぶき羊歯萌ゆる
打たせ湯に男の撓ふ山桜
牛飼の胸へ火の跳ね春暖炉
同人作品評 (4月号) 中田 尚子
葉牡丹の渦のほぐるる忌明けかな 石黒 哲夫
「葉牡丹」は、もともとキャベツの一種から改良されたものだそうで、葉が牡丹の花のように重なって開くので葉牡丹の名があります。牡丹のように決して派手ではありませんが、色の少ない冬の庭を美しく飾ってくれます。
「忌明け」とは、仏式では一般的に四十九日をさしますが、遺された人々にとって、悲しみが癒えるに十分な時間とはいえません。むしろ、日常が戻って寂しさがひたひたと押し寄せてくる頃でしょう。それでも少しずつ少しずつ人は前に進みます。「葉牡丹の渦のほぐるる」には、そんな気持ちの動きが重なって、味わい深い作品となっています。
祝・巻頭 本多 静枝 さん
巻頭五句 杉玉の片側ぬるる春時雨
春疾風乾びし供花を飛ばしけり
啓蟄や断層調査つづきゐし
今朝はまだ棘より小さき山椒の芽
雪代の七瀬濁りのがうがうと
おめでとうございます。
紅 頬 集 秀句・佳句
雪代の七瀬濁りのがうがうと 本多 静枝 雪代は早春、山の雪が解けて川に流れる水をいう。七瀬は万葉集にもあり、言葉通りでは七つの浅い流れだが、この句では幾つもの瀬を考えた方が面白い。「七瀬濁り」の言葉を得て、「がうがうと」と一気に詠み下し、秀逸な作である。作者は金沢在住なので、犀川の風景を詠んだのかもしれない。
以上、俳誌「雉」6月号より抜粋いたしました。