「雉」北陸地区のブログ

「雉」句会の活動を公開しています

「雉」30周年記念特集号

田島 和生 主宰 俳句 

      春 日 の 森  神鹿に春日の森の白雨かな
  大緑蔭牡鹿のひとり眠りゐし
  雄心の見えて膨るる袋角
  神域の藤の実あふぎ前のめり
  大仏のかざす手のひら雲の峰
  仏殿の前を翅曳く蟻ひとつ
  梅雨晴の砂粒光り奈良土塀
    伊東一升さんご逝去
  お岩木は裾廻も見えず梅雨滂沱(ぼうだ)


    「雉」三十周年記念特集 諸家近詠 (一句のみ抜粋)
 飛び立ちし雉のひかりとなりにけり    茨木 和生(「運河」主宰)
 万緑の山稜昭和振り返る         大串 章 (「百鳥」主宰)
 江田島の桜を撫づる刀自かな       大坪 景章(「万象」主宰)
 雉子鳴けば千早の嶮に木魂かな      大峯 あきら(「晨」代表)
 遠山の襞際やかに水の秋         千田 一路(「風港」主宰)
 先代の名乗りさはやか「林徹」      鷹羽 狩行(「狩」主宰)
 蟬の声百千であり一つなり        辻田 克巳(「幡」主宰)
 雉鳴いてよりの静寂を黙しゐる      宮田 正和(「山繭」主宰)
 朝風のしきりに吹いて雉子の声      山本 洋子(「晨」編集長)
 号令の雉の一声野火馳する        八染 藍子(「廻廊」主宰)

「雉」三十周年記念 一句と文章 (一句のみ転載) ヒロシマ忌記憶の底に異界の火      飯野 幸雄(「夕凪」代表)
 遠伊吹見ゆる渡し場雉鳴けり       栗田 やすし(「伊吹嶺」主宰) 
 花は葉に光及ばぬところなし       棚山 波朗(「春耕」主宰)
 雉鳴きて一山の湧きたちにけり      辻 恵美子(「栴檀」主宰)


特別作品 (三十句)       山  国      田島 和生 「雉」主宰 

白山の早瀬引ききし代田かな    魂映すばかりに峡や田水張り
白山をわたる玉の日桐咲けり    山空のいちばん近き桐の花
  一向一揆 鳥越城址
桐一葉ここに一揆は滅びしと    がさとなり頭上を舞へる桐落葉
ひとり行き数多の音の落葉道    落葉山だれ待つとなく椅子一つ
一揆勢起ちし山国走り蕎麦     山城へ径は鉤の手櫨紅葉
粗積みの城の裾垣秋薊       山風に落葉渦巻く天守
城跡の埋め井戸に咲き冬菫     落葉風赤眼の山蛾飛ばされ来
がうがうと白山颪峡の家      遠の山此方の村へと吹雪きけり
地吹雪の近づき来るは女らし    傘杉は仏飯のやう深雪晴
老杉羽搏つがごとく雪払ふ     爺の出て婆出て雪を掻き始む
今の世を雪踏めば雪鳴きにけり   雪しづる信心の家鳴り動し
白山の日をきらきらと軒氷柱    さつきより小烏つつく雪間かな
雪折の杉濃く匂ふ山の宮      城跡は光ちりばめ白菫
蕗のたう雪崩削ぎにしなぞへかな  石ころのはざまはざまや蕗の花
わが立てば影さかのぼる雪解川   雪しろのうねり激ちて遥かなる


同人作品評 6月号       中村 雅樹

いたみ二日昏睡三日春に病む   佐藤 尚夫 前書から奥様のことであるとわかります。「いたみ二日昏睡三日」という表現によって、作者である佐藤さんの悲しみが、具体的に伝わってきます。このような句を前にすると、季語が効いているかどうか、などということは小さなことに思えてきます。ご冥福をお祈りいたします。 


     紅 頬 集 の 秀 句 佳 句     田島 和生

青葉潮廻旋橋を船通る   宮崎 惠美 青葉潮は、初夏の青葉のころに日本列島に近づいてくる黒潮である。黒潮の本流は太平洋岸に沿って北東に進む。名前は黒潮だが、俳人たちが青葉潮というのも面白い。勢いのいい青葉潮は河口にまで押し寄せる。今しも、廻旋橋(かいせんきょう)が水平に回転し、大型船が出てゆく。明るく、はつらつとした作品である。


以上、俳誌「雉」八月号 創刊三十周年記念特集号より抜粋いたしました。