主宰俳句
真白き胸
田島 和生
初燕真白き胸の水に触れ
初諸子円ら目をもて跳ねゐたる
御社の雅楽流るる浅蜊掻き
蒲公英の高畝をゆく下校の子
雌鶏は産み箱に入り春の昼
荒鋤の田水浴ぶるや春鴉
杉の秀の空を落花の飛びゆけり
立ちしまま乳吸ふ子馬山ざくら
同人作品評 津森 延世
鬼門守る千年杉の淑気かな 吉田 泰子 千年杉を見上げている。その姿がよいと思う。人間の力、寿命などを忘れさせる霊力を秘めて「千年杉」は淑気に満ちている。人間は拠り所としているが、千年杉は、ただそこに立っている。
紅頬集 秀句佳句 田島 和生 主宰
筬一打一打西陣春めける 後藤 かつら
京都市上京区は西陣織の本場。家に織機を置き、家族らで絹織物を織る。たて糸の隙間によこ糸を通した杼(ひ)を辷らせて打ち込み、筬が鳴る。パンパンという音が路地に響き、春を告げる。作業の様子を「一打一打」(源句「一打一打と」)と繰り返し、作業に通う勢いのある詠みがいい。
兄の忌や樫の大樹に百千鳥 野澤 多美子
幹は堅く、秋には団栗を落とす樫は、子どもにもなじみ深い。春を迎えた樫の大樹にはいろんな小鳥がやって来て囀る。今日は兄の忌日。樫を仰ぎ、囀りに耳を澄ませながら、優しかった遠い日の兄を思う。具体的な「樫の大樹」がいい。
晩酌の今日の一品春鰯 亀田 次郎
油ののった春鰯はおいしい。「晩酌の今日の一品」である。一品は逸品のようで、幸せそうな句である。
以上、俳誌「雉」6月号より抜粋いたしました。