主宰俳句
初鴨 田島 和生
初鴨はつばさの透きて高嶺空
声上げて初鴨初の夜なりけり
初鴨へ浮標の赤き灯が飛べり
若鳶のいよいよ高し次郎柿
新宿
駅柵にゴッホ自画像猫じやらし
鎌倉海岸
揚舟の旗はみな赤秋の風
亡きひとへ剪りしと紫苑一抱へ
綾子忌の晴れて紫苑のゆれやまず
同人作品評 山中 多美子
烏賊刺しのねつとり甘き能登泊り 青木 和枝
「ねつとり甘き」とはまさに烏賊刺しの食感そのもの。対馬暖流と千島寒流がぶつかる能登の沖合は、昔から烏賊釣漁が盛んである。波音が聞こえる宿で、往き交う船を身近に感じながら、獲れたての烏賊刺しに舌鼓をうつ。今宵は熱燗できゅっと一杯。
暑き日や檻に手をかけ眠る猿 佐瀬 元子
檻に手をかけて眠りこけている猿。日頃は檻の中を自在に動き回っている猿も、真夏の暑さには勝てないのだろう。「檻に手をかけ」に動物園の猿の哀れを感じる。
吾を抱く母の写真を曝しけり 山岸 昭子
若い日の母に抱かれた赤児の自分。その大切な写真を曝す。今はもうセピア色の写真ではあるが、吾を抱く母の美しいこと。
紅頬集 秀句・佳句 田島 和生 主宰
無花果に雀の群るる裏の畑 松本 よね子
おめでとうございます。
以上、「雉」12月号より抜粋いたしました。