「雉」北陸地区のブログ

「雉」句会の活動を公開しています

俳誌「雉」4月号から

主宰俳句
初諸子      田島 和生
凍空を下り来る鳶の面構へ
みづうみの微塵のひかり梅早し
虹の根へ浮かびてるるるかいつむり
にほどりの鳴いて近江の春立てり
堰越えて泡立ち真白雪解水
小さき口揃へて売らる初諸子

   東京・夢の島2句
足下の芥幾層犬ふぐり
福龍丸底粗々と冴返る


     同人作品評(2月号)   平田 冬か

一茶忌や畑の堆肥湯気上ぐる   石黒 哲夫
 「一茶忌」は陰暦11月19日。今でいうと1月の初旬にあたる寒さの厳しい時期。堆肥から湯気が上がる霜日和の日だ。堆肥の中は発酵熱でほこほこ暖かい。この中には一茶の愛した虫たちがたくさん冬眠している。
 なお、一茶は、信州の農家に生まれ江戸に出て俳人として知られるようになるも、晩年は生れ故郷に帰るが幸せな生涯ではなかった。小動物を自分の分身の如く愛しんで詠んだ句が多い。

二霜の葛のすがれや古墳山   吉田 泰子
 真葛で覆われた古墳山。秋になると多少は衰えるが、生命力の強い葛はまだまだ勢いを失わない。しかし、冬に入り二度目の霜が降りる頃には、さすがの葛も勢いがなくなり枯れてくる。「二霜の」に実感がこもる。

眠き目の天使のゐたり聖夜劇   福江 ちえり
 クリスマスにキリスト教の幼稚園などでは、キリストの生誕の場面を劇にしてお祝いする。マリアやヨセフ、羊飼い、その他セリフのない天使役の子も大勢舞台に上がる。そんな中の天使の一人がいかにも眠そうで微笑ましい。

雪囲ふ女庭師の男結ひ   山岸 昭子
 雪国では、庭園の草木を雪か護るために、藁や筵や板などで囲う。それも庭師の仕事。雪囲いの作業中の女庭師のテキパキとした手元を見ていたら、縄の結び方が男結びであるとふと気づいた。何でもないことを、言葉の上で女と男に対比させてこのように詠んでみせた。ちなみに、男結びというのは、縄の右の端を左の下に回しさらに右に返して輪を作り、左の端をその輪に通すというやり方。これを左の端から始める結び方が女結びだ。


      紅頬集 秀句・佳句   田島 和生 主宰

唐崎の松の影伸ぶ雪の上   川田 けい
 唐崎の松は、近江八景「唐崎の夜雨」で知られる近江の唐崎神社にあり、大きな傘形である。芭蕉の〈辛崎(唐崎)の松は花より朧にて〉は有名。芭蕉の句を踏まえ、松が雪に淡い影を広げている光景を詠んでいるが、「影伸ぶ」の動きのある表現がよく、風景も美しい。

寒垢離の胸板弾く飛沫かな   後藤 かつら
 寒垢離(かんごり)は神仏に祈るため、寒中に冷水を浴びる寒修行である。修験者が白衣を着て、六根清浄などを唱えながら、滝の下に立てば、激しく落ちる水が胸を打ち、飛沫が飛び散る。「胸板弾く」の写実的な表現が優れ、秀逸である。


以上、俳誌「雉」4月より抜粋いたしました。