主宰俳句
呉の子 田島 和生
ひややかに月下美人の一夜花
綾子句碑木洩れ日へ散る黄葉かな
霧晴れて朝湯に手足泳ぎけり
海かけて夕闇せまる秋思かな 呉4句
水兵の名は墓地に満ち雲の秋
旧軍港月の港となりゐたる
満月や夢うつつなる海の宿
金秋の呉の子が跳ね鉦太鼓
同人作品評(10月号) 菊田 一平
青春の思ひは越に土用餅 石黒 哲夫
「越」とは北陸から庄内にかけての一帯を詠んだ古称。「越」はさらに「越前(福井)」「越中(富山)」「越後(新潟)」の三つに分かれるが、石黒さんの「越」はまぎれもなく米どころ「越後(新潟)」のことに違いない。一般的に、土用と言えば丑の日の「鰻」を思いがちだが、越後ではもっぱら「小豆餡で餅を包んだ土用餅」を食べたらしい。石黒さんの「思ひは越に」と言った中七の切れに「青春の日々の越」への思いの深さを感じる。
祝・巻 頭 辻江 恵智子 さん
峡深く秋日に透きて滝しぶき
少年の声はソプラノ秋高し
御詠歌の堂に昂ぶる秋夕べ
鮠の影右往左往の水澄めり
白山を隠す雲居や鳥渡る
おめでとうございます。
更なるご活躍をお祈り申し上げます。
紅頬集 秀句佳句 田島 和生 主宰
白山を隠す雲居や鳥渡る 辻江 恵智子
石川、岐阜両県にまたがる名峰、白山。地元では昔から神々の宿る山としてあがめられてきた。秋を迎え、その高峰を北方から鴨や雁、白鳥が渡って来る。今日は残念ながら白山は雲に隠れているが、雲間に渡り鳥が連なって見える。「雲居」の言葉を得て、表現に無駄がなく、妙味に溢れている。
以上、俳誌「雉」12月号より抜粋いたしました。