自句逍遥十句⑮ 吉田泰子
風抜けもありて越路の稲架作り
墓守の土間に野蕗の一とかかへ
栃の花籠の渡しの名残り石
十薬の香につきあたり寺井跡
朝焼や束子で磨く鮫の膚
入札を締め切るベルや海鞘の市
甲高く唄ひ出したり風の盆
椎若葉万葉の杜ふくらめり
弁慶は拳で泣けり歌舞伎山車
初つばめ軒の鏝絵にひるがへり
寺縁起四百畳の冷えに聴く
「同人作品評」(四月号) 中村与謝男
屠蘇の酔ひ醒めて日暮れとなりゐたる 福江千英里
年齢を重ねると、正月、まして元日も感慨が変わるものだ。「日暮れとなりゐたる」と直叙することで、大人の作品になしえた。屠蘇の酔いが醒め、元日は暮れていく。
「紅頬集の秀句佳句」
忽ちに鉢の芽隠す春霞 宮崎明倫
子の墓の雪まだ固き彼岸かな 生田章子
椿落つ鏡花全集読みおれば 海野正男
早立ちの子を見送れば雉鳴けり 林 喜美子
以上です。おめでとうございます。