「雉」北陸地区のブログ

「雉」句会の活動を公開しています

雉ネット俳句2020

令和2年(2020)入選作品
第72回 令和2年 12月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇柚子風呂に熱唱したる第九かな   千葉県千葉市  玉井 令子
〇木枯しや胸の手紙にそっと触れ   神奈川県川崎市 立野 音思
〇笹子鳴く御陵までの一里塚     岐阜県岐阜市  辻  雅宏
 初氷ばりばり踏んで登校す      青森県平川市   工藤 悠久
 妻が言ふ生きているから息白し    神奈川県小田原市 白石 正彦
 奥能登の闇を切り裂く鰤起し     神奈川県横浜市  龍野ひろし
 日の匂ひ踏む山里の落葉道      神奈川県横浜市  龍野ひろし
 晩婚の小さき報告年賀状       岐阜県可児市   鷲津 誠次
 独り居の夜の重さや蒲団敷く     岐阜県岐阜市   辻  雅宏
 鈍行のドア開くごとの寒さかな    岐阜県岐阜市   辻  雅宏
 虫喰ひの錆朱の傷や柿落葉      静岡県富士宮市  遠藤 英二
 冬旱埃まみれのスニーカー      静岡県富士宮市  遠藤 英二
 大仏の少し猫背や冬ざるる      三重県四日市市  後藤 允孝
 干し大根整然とあり島の家      広島県大竹市   西亀
 命綱腰に窓拭く師走かな       広島県広島市   林 己紀男
 オリオンの突き刺さりたる富岳かな  愛媛県新居浜市  加島 一善
 老いと言う寂静に置くポインセチア  福岡県福岡市   森内 梅子
林 さわ子 選

〇日の匂ひ踏む山里の落葉道     神奈川県横浜市  龍野ひろし
〇大仏の少し猫背や冬ざるる     三重県四日市市  後藤 允孝
〇鴨川を雲水の列かもめ舞ふ     奈良県奈良市   堀ノ内和夫
 初氷ばりばり踏んで登校す      青森県平川市   工藤 悠久
 柚子風呂に熱唱したる第九かな    千葉県千葉市   玉井 令子
 クリスマス修士論文仕上げたり    東京都墨田区   海老名 吟
 今年また死なず取り出す冬帽子    神奈川県小田原市 白石 正彦
 奥能登の闇を切り裂く鰤起し     神奈川県横浜市  龍野ひろし
 独り居の夜の重さや蒲団敷く     岐阜県岐阜市   辻  雅宏
 鈍行のドア開くごとの寒さかな    岐阜県岐阜市   辻  雅宏
 月光に天女の衣冬桜         静岡県富士宮市  遠藤 惠子
 廃屋の屋根かけ上がる蔦紅葉     大阪府豊中市   西田 順紀
 公園の夕暮れの灯や冬に入る     奈良県奈良市   堀ノ内和夫
 もろぶたに並ぶのし餅寺の縁     広島県大竹市   西亀
 干し大根整然とあり島の家      広島県大竹市   西亀
 城跡の石垣崩れ石蕗の花       広島県広島市   林 己紀男
 オリオンの突き刺さりたる富岳かな  愛媛県新居浜市  加島 一善
高校生の部
小林 美成子 選

犬の「まろ」落葉の山へ飛び込めり  福井県坂井市 小林 陸人
農道の積雪多し猫黒し        福井県坂井市 小林 陸人
林 さわ子 選

農道の積雪多し猫黒し        福井県坂井市  小林 陸人
冬の夜や雨音ひびく家の中      福井県坂井市  小林 陸人
特選句 選評
小林 美成子

柚子風呂に熱唱したる第九かな  千葉県千葉市  玉井 令子

 柚子風呂に年末恒例の第九を取り合せ、一瞬コロナ禍の世情を忘れさせる様な楽しい句。「熱唱したる」に作者の屈託のない人柄を感ずる。

木枯しや胸の手紙にそつと触れ  神奈川県川崎市  立野 音思

 したためた手紙を胸に、冷たい風の中をポストへ向かう作者。「そっと触れ」のフレーズに色々なことが想像され、一句にドラマが生まれる。

笹子鳴く陵までの一里塚   岐阜県岐阜市 辻 雅宏

 大和の山野辺の道を想起させる一句。笹子、陵、一里塚のそれぞれの素材が品よく配置されていて、読む者の心を和らげてくれる。

林 さわ子             
    
日の匂ひ踏む山里の落葉道    神奈川県横浜市  龍野 ひろし

 山里の落葉道を歩く作者。「日の匂ひ踏む」の表現が上手い。暖かな冬日や落葉の匂い、作者の満ち足りた気持ちが伝わる。 

大仏の少し猫背や冬ざるる    三重県四日市市  後藤 允孝

 露座の大仏だろう。その大きく豊かな背中を猫背と感じた。見上げる人々に屈みこむような大仏の姿が思われ、「冬ざるる」の季語によって一層滋味深く感じられる。

鴨川を雲水の列かもめ舞ふ    奈良県奈良市  堀ノ内 和夫

 鴨川のかもめはユリカモメ。都鳥とも言う。命をつなぐために北方から渡って来る鳥だ。雲水は行脚僧を行方の定まらない雲や水に例えた呼称。厳しい道を行く雲水の列に白い鷗が舞う光景は、静けさの心象のようにも思える。通常、「かもめ」だけでは季語ではない。

 

第71回 令和2年 11月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇話し相手欲しくてポインセチア買ふ 岩手県洋野町   みかわ えつこ 
〇冬麗や正午のままの花時計     千葉県松戸市   吉沢 美佐枝 
〇青洟におできの頃よふかし藷    東京都葛飾区   本田 英夫 
 塩だけで食ふ新米の旨さかな     青森県平川市    工藤 悠久 
 片町へわたる犀川片しぐれ      栃木県那須塩原市  垣内 孝雄 
 曜変の瑠璃の輝き龍の玉       千葉県千葉市    玉井 令子 
 寒海苔を透かして空は海となる    東京都墨田区    海老名 吟 
 下鴨の御籤を浸す秋の水       神奈川県横浜市   龍野 ひろし 
 いつせいに落葉走るや靴の先     富山県小矢部市   福江 真子 
 回廊を行く蹠より冬来る       岐阜県岐阜市    辻  雅宏 
 開封の珈琲薫る冬の部屋       愛知県津島市    正木 羽後子 
 先代の鋏を腰に松手入        愛知県津島市    正木 羽後子 
 木枯しや走り根しかと土を抱く    三重県四日市市   後藤 允孝 
 病む窓に冬の日射しの逃げ易し    滋賀県大津市    中村 良一 
 山門につづく反橋紅葉散る      広島県呉市     谷本 佳子 
 何事もなくて今年も日記買ふ     愛媛県新居浜市   加島 一善 
 妻留守の厨に籠る寒さかな      沖縄県那覇市    稲福 達也 
林 さわ子 選

〇大根の葉の青々と保育園      埼玉県吉川市   石井 カズオ 
〇先代の鋏を腰に松手入       愛知県津島市   正木 羽後子 
〇小春日や綿雲映るガラスビル    沖縄県那覇市   稲福 達也 
 塩だけで食ふ新米の旨さかな     青森県平川市    工藤 悠久 
 うつすらと焦げ跡ありし囲炉裏縁   千葉県市川市    鳥越 暁 
 叡山の山襞を這ふ冬の霧       千葉県松戸市    吉沢 美佐枝 
 福助も達摩もおわす菊花展      神奈川県平塚市   髙橋 勝久 
 湯豆腐や小言幸兵衛酒二合      神奈川県小田原市  白石 正彦 
 落葉掃く背へ落葉の舞ひにけり    富山県富山市    谷  光恵 
 回廊を行く蹠より冬来る       岐阜県岐阜市    辻  雅宏 
 鉋屑のかほり運べり小春風      静岡県富士宮市   遠藤 英二 
 絵硝子に集まるひかり冬館      静岡県富士宮市   遠藤 惠子 
 みちのくの闇しんしんと山眠る    愛知県津島市    正木 羽後子 
 木枯しや走り根しかと土を抱く    三重県四日市市   後藤 允孝 
 人里を少し離れてお茶の花      滋賀県大津市    中村 はるみ 
 月天心学生寮の破れ窓        奈良県奈良市    堀ノ内 和夫 
 瀬戸内の島へ遠乗り小春かな     広島県呉市     谷本 佳子 
 冬温しベンチに一人にぎり飯     広島県大竹市    西亀 
高校生の部
小林 美成子 選

 山里の龍神の旅雲の旅       福井県坂井市   小林 陸人 
 枯木より枯木へ猿の飛び移る    福井県坂井市   小林 陸人 
林 さわ子 選

 山里の龍神の旅雲の旅       福井県坂井市   小林 陸人 
 枯木より枯木へ猿の飛び移る    福井県坂井市   小林 陸人 
 山里や初冬の暮の虫の声      福井県坂井市   小林 陸人 
特選句 選評
小林 美成子 

話し相手欲しくてポインセチア買ふ  岩手県洋野市 みかわ えつこ

 クリスマスシーズンの華やかな街の喧騒にあって、一鉢のポインセチアを買う。「話し相手欲しくて」の措辞に、作者の孤独と境涯が仄見えて、文学的奥行きを感じさせる句。

冬麗や正午のままの花時計      千葉県松戸市 吉沢 美佐枝

 故障中なのか、いつ見ても正午を指している花時計。
麗らかな冬の日射しの中、時が止まったような光景に、コロナ禍で停滞している世界が重なる。

青洟とおできの頃よふかし藷     東京都葛飾区 工藤 悠久

 私の子供の頃は、栄養不足でおできは当たり前。鼻水を垂らしている子がいると近所のおばさんが割烹着のポケットからチリ紙を出して何も言わずに拭いてくれたものだ。貧しかったあの時代、人々は優しかった。ふかし藷が郷愁を誘う。
林 さわ子

大根の葉の青々と保育園       埼玉県吉川市 石井 カズオ

 保育園の小さな畑に大根が植えてある。「青々と」の表現に保育園の地域性や元気な子供たちの様子、保育方針までがうかがわれる。

                    
先代の鋏を腰に松手入        愛知県津島市 正木 羽後子

 剪定の中でも特に難しい技術を要する松の手入れ。先代が愛用していた鋏を使っているのだろうか。先代の教えと道具を大切にする、そんな職人らしい確かな技術や仕事ぶりが見えてくる。                 

小春日や綿雲映るガラスビル     沖縄県那覇市 稲福 達也

 壁面が総ガラスのようなビル。そのビルに空の青と綿雲が映っている。小春日と綿雲という、ふわりと温かみのある組み合わせが都会的な硬質のビルに絵本のような明るさ、楽しさを生み出している。        

 

第70回 令和2年 10月の募集
一般の部
小林 美成子 選

○長き夜のまちがいさがしあとひとつ  岩手県洋野町種市  みかわ えつこ
○一枚五円秋晴をポスティング     埼玉県吉川市    石井 カズオ
○秋寂ぶや熾火にしのぶ落城史     千葉県松戸市    吉沢 美佐枝
 しづかなる家飲みも好し今年酒    青森県平川市    工藤 悠久
 駄菓子屋のにほひむかしのまま小春  岩手県洋野町種市  みかわ えつこ
 曼珠沙華田舎に病める従兄弟をり   神奈川県平塚市   髙橋 勝久
 石榴の実何かを言いかけたような   神奈川県横浜市   龍野 ひろし
 木の実落つ偽りのなき音たてて    神奈川県横浜市   中島 聖華
 ひとり蹴るサッカーボール秋の暮   神奈川県横浜市   平野 ゆうた
 騎馬戦の大将倒し天高し       千葉県千葉市    玉井 令子
 桐は実に風の集まる曲輪跡      千葉県松戸市    吉沢 美佐枝
 従六位を賜る伯父や豊の秋      岐阜県岐阜市    辻 雅宏
 干されある味噌樽の香や秋の風    岐阜県岐阜市    辻 雅宏
 放哉の句集に耽る夜長かな      兵庫県尼崎市    松井 博介
 振り向かぬ子を見送りて秋の空    広島県広島市    林 己紀男
 善人が悪人になる村芝居       沖縄県那覇市    稲福 達也
林 さわ子 選

○ずんずんと秋空広き観覧車      埼玉県深谷市    潟淵 恵美子
○磨かれし床一面の紅葉かな      千葉県千葉市    玉井 令子
○刈田道点々と行くランドセル     富山県小矢部市   福江 真子
 駄菓子屋のにほひむかしのまま小春  岩手県洋野町種市  みかわ えつこ
 雨粒に揺るる竜胆ちよんちよんと   千葉県市川市    鳥越 暁
 秋北斗D判定の模試の帰路       東京都墨田区    海老名 吟
 終バスはまことに来るや虫時雨    東京都葛飾区    本田 英夫
 塩水にりんご浮かべて母ひとり    神奈川県小田原市  白石 正彦
 故郷は五十の市の菊膾        神奈川県小田原市  白石 正彦
 これ見てと木の実あふるる小さき手  神奈川県平塚市   髙橋 勝久
 図書館へ秋風と行く杖の音      神奈川県平塚市   髙橋 勝久
 橋脚に洪水の跡水澄めり       神奈川県横浜市   中島 聖華
 ひとり蹴るサッカーボール秋の暮   神奈川県横浜市   平野 ゆうた
 山霧の尾根を一気に渡りけり     神奈川県横浜市   平野 ゆうた
 つひに輪に入れぬままの秋の暮    兵庫県神戸市    峰 乱里
 風になり野原を駈ける芒かな     広島県広島市    林 己紀男
 あの月も宇宙へ飛ばん大嚏      愛媛県新居浜市   加島 一善
 趙雲よ先に飲むなよ新走り      福岡県福岡市    森内 梅子
 若きらが歌で徒ゆく山の霧      沖縄県那覇市    稲福 達也
高校生の部
小林 美成子 選

新米をほおばる明日は文化祭     富山県砺波市    ひまわり
新曲を歌って帰る夕月夜       富山県砺波市    ひまわり
白龍は里の守護神里まつり      福井県坂井市    小林 陸人
林 さわ子 選

新米をほおばる明日は文化祭     富山県砺波市    ひまわり
新曲を歌って帰る夕月夜       富山県砺波市    ひまわり
電車来て秋の蛙の最期なり      福井県坂井市    小林 陸人
秋の浜女子大生ら競争す       福井県坂井市    小林 陸人
白龍は里の守護神里まつり      福井県坂井市    小林 陸人
特選句 選評
小林 美成子

長き夜のまちがいさがしあとひとつ  岩手県洋野町種市  みかわ えつこ 
 筆者も新聞の日曜版の間違い探しに挑戦しているが、最後の一つが中々見つからずいつも悔しい思いをしているので、この句には大いに共感した。もどかしさと秋の夜長を感じさせる中七以下のひらがな表記に工夫があり、「あとひとつ」に実感がある。

一枚五円秋晴をポスティング     埼玉県吉川市    石井 カズオ
 秋晴の街をポスティングのアルバイトに励む作者。「一枚五円」のストレートな物言いに作者の逞しさが感じられ、家々にちらしと一緒に秋晴を配っている様な明るさがある。〈秋晴や一枚五円のポスティング〉と定型にするより元句の破調の方が面白い。

秋寂ぶや熾火にしのぶ落城史     千葉県松戸市    吉沢 美佐枝 
 日本史に登場する多くの城は、その権勢の歴史と共に落城の歴史を刻み込んでいる。作者は暖炉か囲炉裏の傍らで歴史小説を読んでいるのだろうか。燃え盛る炎ではなく、落城の悲哀を浮かび上がらせる消え消えの「熾火にしのぶ」として成功。
林 さわ子 

ずんずんと秋空広き観覧車      埼玉県深谷市    潟淵 恵美子
 作者の乗った観覧車が空へ昇って行く。「ずんずんと」の表現が若く、力強い。巨大な観覧車が小さく見えるほどの、広く高い秋空。非日常の高揚感が伝わる。
 
磨かれし床一面の紅葉かな      千葉県千葉市    玉井 令子
 つやつやと磨き抜かれた床板。外は紅葉の庭か。戸が開かれていて、暗い室内から見ると紅葉が床に鮮やかに映っている。屋外からの光と、室内の暗さとの対比が美しい。

刈田道点々と行くランドセル     富山県小矢部市   福江 真子
 刈田の道を子ども達が通学している光景。枯れ色の中に赤や黒のランドセルが映える。「点々と」が、子どもの数は固まって行くほど多くはないことを伝えている。収穫の終わった里の温かみのある光景である。作者の眼差しが優しい。  

第69回 令和2年 9月の募集
一般の部
小林 美成子 選

○快音のひびく九月の子規球場     千葉県松戸市    吉沢 美佐枝
○空くじの多き駄菓子屋昼の虫     岐阜県可児市    鷲津 誠次
○書道塾窓全開に虫すだく       岐阜県可児市    鷲津 誠次
 小鳥来る志功の女神笛吹けば     岩手県九戸郡洋野町 三河 えつ子
 子どもらのほつぺが好きな猫じやらし 栃木県塩谷町玉生  河原 さんぽ
 コスモスの揺れて遥かにスカイツリー 東京都墨田区    海老名 吟
 土手に葛咲いて覆面ジョガーかな   東京都葛飾区    本田 英夫
 輪になつて愉快な仲間案山子たち   富山県小矢部市   福江 真子
 三人の孫とリモート敬老日      岐阜県岐阜市    辻  雅宏
 秋天や尾根きはやかに遠伊吹     岐阜県岐阜市    辻  雅宏
 書き消ちの手帳繙く獺祭忌      愛知県津島市    正木 羽後子
 秋簾忽と日の落つ東山        滋賀県大津市    中村 良一
 晴るる日のかくも真つ赤な唐辛子   滋賀県大津市    中村 はるみ
 秋空へ鞦韆近くまた遠く       兵庫県神戸市    峰  乱里
 かくれんぼ早く見つけて葛の花    福岡県福岡市    森内 梅子
林 さわ子 選

○小鳥来る志功の女神笛吹けば     岩手県九戸郡洋野町 三河 えつ子
○金風や棚田千枚波打ちぬ       愛知県津島市    正木 羽後子
○麦藁帽被りしままに露天風呂     大阪府豊中市    西田 順紀 
 かなかなのすだく夜明けの林かな   千葉県千葉市    玉井 令子
 コスモスの揺れて遥かにスカイツリー  東京都墨田区    海老名 吟
 名月や一掬の水甘くして        東京都墨田区    海老名 吟
 夕暮れの稲架に残るや日の匂ひ     神奈川県川崎市   立野 音思
 端居してロダンの像になりてをり    神奈川県横浜市   中島 聖華
 穭田の風の旨しと病み上がり      富山県富山市    谷  光恵
 朝顔の花を数へて誕生日        富山県小矢部市   福江 真子
 潮風や夫と揃ひの藍浴衣        長野県岡谷市    京 真 如
 秋天や尾根きはやかに遠伊吹      岐阜県岐阜市    辻  雅宏
 書道塾窓全開に虫すだく        岐阜県可児市    鷲津 誠次
 さざ波の棚田千枚秋夕焼        愛知県津島市    正木 羽後子
 晴るる日のかくも真つ赤な唐辛子    滋賀県大津市    中村 はるみ
 蕎麦の花祖谷の段畑天空へ       香川県高松市    西  教子
特選句 選評
小林 美成子

快音のひびく九月の子規球場     千葉県松戸市    吉沢 美佐枝
 子規球場は野球好きだった子規を顕彰し作られた上野恩賜公園内にある小さな野球場。秋晴の下、カーンという快音が小気味よい。子規が野球を楽しめたのも青春のほん一時期で大半が病臥の一生であった。季語を子規の亡くなった月の九月としたことで、子規への強いオマージュを感じさせる句。

空くじの多き駄菓子屋昼の虫     岐阜県可児市    鷲津 誠次
 子ども達の社交場駄菓子屋。狭い店内に雑然と並べられた原色の駄菓子の数々。このカオスこそ彼等をワクワクさせるのだ。子どもの射幸心をくすぐる空籤ばかりの籤は集客の大切な仕掛け。そのセコさと暗がりで密かな声を上げている昼の虫が通じ合っている。

書道塾窓全開に虫すだく       岐阜県可児市    鷲津 誠次
 通常の年であったら「窓全開」の措辞は普通の景として受け止められるが、コロナ禍の現在は特別の意味を持つ。コロナを殊更に言挙げることなく、社会現象をさらりと写生していて実感がある。地味な印象の「書道塾」に「虫すだく」の季語が効いている。

林 さわ子

小鳥来る志功の女神笛吹けば     岩手県九戸郡洋野町 三河 えつ子
 誰もが知っている棟方志功の天女、女神。笛を吹いている女神を見ていると鳥の声が聞こえたのか、小鳥が来そうだと感じたのか、志功の作品の魅力を伝えてくれる。

金風や棚田千枚波打ちぬ       愛知県津島市    正木 羽後子
 能登千枚田だろうか。穂波、青田波など、田の面に風が吹く様を波で表すことは多いが、掲句は「波打つ」と力強い。季語の金風と響き合って、息を飲むような豊穣の輝きだ。

麦藁帽被りしままに露天風呂     大阪府豊中市    西田 順紀
 暑い日中に入る露天風呂か。日差しを避けて、麦藁帽を被ったまま入っている。地域の人が労働の後に楽しむ露天風呂を想像させ、気持ちのゆとりも伝わる。
   
第68回 令和2年 8月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇泳ぐ君見てゐる微熱ほどの恋     岩手県洋野町種市 三河 えつこ
〇教へ子の晩婚祝ふ柿日和       岐阜県可児市   鷲津 誠次
朝顔や七十過ぎの再雇用       岐阜県可児市   鷲津 誠次
 秋入日畳の部屋の文机        栃木県那須塩原市 垣内 孝雄
 電線に帰燕間近の気配かな      栃木県塩谷町玉生 河原 さんぽ
 アイドルの団扇片手にバーベキュー  富山県富山市   山下 貴子
 少年兵たちの青春敗戦忌       富山県富山市   山下 貴子
 玫瑰や耳にやさしき能登訛      富山県小矢部市  福江 真子
 花入に向日葵開く停留所       長野県岡谷市   和田 イチ子
 短夜や辻褄合はぬ夢ばかり      静岡県富士宮市  遠藤 惠子
 単線の二輌編成いわし雲       滋賀県大津市   中村 良一
 常永久に常に八月十五日       兵庫県尼崎市   松井 博介
 夕焼けや刈田に伸びる塔の影     岡山県岡山市   田口 啓志
 農小屋の戸は半開き白芙蓉      広島県尾道市   津川 聖久
 港まで道真つ直ぐや秋の曇      広島県呉市    谷本 佳子
林 さわ子 選

〇風鎮の壁打つ音や今朝の秋       千葉県松戸市  吉沢 美佐枝
〇干し終へし息子らの夜具夏終る     東京都葛飾区  本田 英夫
〇白壁の梲(うだつ)の欠けてけふの月   滋賀県大津市  中村 良一
 ことごとく襖をあけて夜の秋      埼玉県吉川市  石井 カズオ
 秋種を丁寧に蒔く白寿かな       埼玉県深谷市  潟淵 恵美子
 朝顔の色水並べお飯事         埼玉県深谷市  潟淵 恵美子  
 しぶき浴び激流下る夏休み       千葉県千葉市  玉井 令子
 弓なりに続く遠浅砂日傘        千葉県千葉市  玉井 令子
 足元の昏るるは早し月見草       神奈川県横浜市 中島 聖華
 コロナ禍や一人杖つき墓参り      富山県富山市  谷  光恵
 雲海と群青の空吾は点に        長野県岡谷市  京  真如
 花入に向日葵開く停留所        長野県岡谷市  和田 イチ子
 教へ子の晩婚祝ふ柿日和        岐阜県可児市  鷲津 誠次
 僧立つや新米重き頭陀袋        愛知県津島市  正木 羽後子
 パイナップル一本芯の通りをり     大阪府東大阪市 森  教安
 雪渓の映る池塘や白馬岳        大阪府豊中市  西田 順紀
 農小屋の戸は半開き白芙蓉       広島県尾道市  津川 聖久
 ひぐらしや五百羅漢に見降ろされ    福岡県福岡市  森内 梅子
高校生の部
小林 美成子 選

 校庭の隅に句碑あり秋の風       福井県坂井市  福井 水龍子
 校庭の真昼の虫に聞き入りぬ      福井県坂井市  福井 水龍子
林 さわ子 選

 あの夏雲おおきくおおきく成長した   埼玉県加須市  古跡 愛咲
 一週間必死な声に汗涙         埼玉県加須市  古跡 愛咲 
 校庭の隅に句碑あり秋の風       福井県坂井市   福井 水龍子
 校庭のとんぼ日にけに多くなり     福井県坂井市   福井 水龍子
 校庭の真昼の虫に聞き入りぬ      福井県坂井市   福井 水龍子
特選句 選評
小林 美成子

泳ぐ君見てゐる微熱ほどの恋   岩手県洋野町種市  三河 えつこ
 私たちの句会では絶対に目にすることのないドキドキする様な青春句。
視線の先の君に対する恋人未満の淡い恋を、「微熱ほどの恋」と魅力的なフレーズを用いて素敵だ。こうした俳句に出会えるのもネット俳句ならではの楽しみである。

教へ子の晩婚祝ふ柿日和     岐阜県可児市    鷲津 誠次
 晩婚の教え子の結婚式に招待された元教師の感慨を描き、小津安二郎の映画の世界を彷彿とさせる。「晩婚」の言葉の持つ落ち着きと充実に、柿日和の季語が動かない。〈晩婚の教へ子祝ふ柿日和〉でも良かった。

朝顔や七十過ぎの再雇用     岐阜県可児市    鷲津 誠次
 第二の人生を前向きに捉えた現代社会のリアルが共感を呼ぶ句。
朝顔」に象徴される気力も体力も若い者には負けないぞという気概が、読む者に元気を与えてくれる。この句も季語の斡旋が秀逸。
林 さわ子

風鎮の壁打つ音や今朝の秋       千葉県松戸市  吉沢 美佐枝
床の間の掛け軸か、朝の風がいつになく風鎮を揺らしている。その音に作者は秋の訪れを感じた。家の中にも季節の移ろいがあることを思い出させ、安らぎがある。

干し終へし息子らの夜具夏終る     東京都葛飾区  本田 英夫
帰省していた息子達がまた戻って行った。
その夜具を干し上げた満足感と、急に寂しくなった家の様子がうかがわれる。「息子ら」
の表現に、まだまだ明るく元気な作者の日常と子への愛情が見て取れる。

白壁の梲(うだつ)の欠けてけふの月       滋賀県大津市  中村 良一
梲の街並みが往時の賑わいを伝えるが、今では欠けたままの梲もあり寂れている。今日の月、すなわち望月が無常を照らす景が見える。

第67回 令和2年 7月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇さみだるる四か国語のアナウンス 東京都葛飾区   本田 英夫
〇遠雷や速達開く鋏置く      神奈川県平塚市  髙橋 勝久
〇大阿蘇の千里うるほす男梅雨   福岡県福岡市   大坪 瑞季
 恋しさの募るや氷果くづれゆく  岩手県洋野町種市 三河 えつこ
 あぢさゐや傘歩くよな下校の児  埼玉県吉川市   石井 カズオ
 蝉声も明るき雨後の林かな    埼玉県吉川市   石井 カズオ
 ひと雨に底紅の紅きはだちぬ   千葉県松戸市   吉沢 美佐枝
 光琳の筆の涼しき小袖かな    神奈川県横浜市  龍野 ひろし
 夕焼の海を背に塩田句碑     富山県小矢部市  福江 真子
 向日葵やこの近道に母校あり   長野県岡谷市   和田 イチ子
 真青なる禰宜の袴や海開き    岐阜県岐阜市   辻  雅宏
 競馬新聞顔に地下足袋三尺寝   岐阜県岐阜市   辻  雅宏
 訥々と本音を語る端居かな    滋賀県大津市   中村 はるみ
 蟷螂のきりきり立てる構えかな  大阪府大阪市   山中 紅萼
 ふしくれの指しなやかに祭笛   広島県広島市   林 己紀男
 濃紫陽花棺に納める謡本     福岡県福岡市   大坪 瑞季
 漢ひとりひと間の暮らし大西日  福岡県福岡市   大坪 瑞季
 籠る日の問わず語りや夏の蝶   宮崎県延岡市   甲斐 徳子
林 さわ子 選

〇紫陽花の大きく撥ねる今朝の雨    富山県富山市  谷  光恵
〇真青なる禰宜の袴や海開き      岐阜県岐阜市  辻  雅宏
〇ふしくれの指しなやかに祭笛     広島県広島市  林己 紀男
 あぢさゐや傘歩くよな下校の児    埼玉県吉川市  石井 カズオ
 「ごめんね」の代わりにソーダ水二本 東京都墨田区  海老名 吟
 エレベーター一緒になった蚊と降りぬ 神奈川県平塚市 髙橋 勝久
 遠雷や速達開く鋏置く        神奈川県平塚市 髙橋 勝久
 涼風や座敷の猫は鼾かき       神奈川県平塚市 髙橋 勝久
 傘にまだ雨音残し夕立やむ      神奈川県横浜市 龍野 ひろし
 十本のダッシュや汗のふくらはぎ   神奈川県横浜市 龍野 ひろし
 青田波水平に飛ぶ鷺一羽       富山県小矢部市 福江 真子
 茹でられし新じやが小粒笊のなか   富山県小矢部市 福江 真子
 白日傘会釈交わして去りにけり    愛知県津島市  正木 羽後子
 蟷螂のきりきり立てる構えかな    大阪府大阪市  山中 紅萼
 シワシワと蝉の輪唱はじまりぬ    広島県広島市  林 己紀男
 弟のでこをぺちりと蚊を仕留め    広島県呉市   谷本 佳子
高校生の部
小林 美成子 選

花火開く『竜馬がゆく』を閉じたれば  福井県坂井市  福井 水龍子
舞姫』の浪漫主義よ夏灯       福井県坂井市  福井 水龍子
林 さわ子 選

花火開く『竜馬がゆく』を閉じたれば  福井県坂井市  福井 水龍子
縁側に『火花』読みつつ涼風に     福井県坂井市  福井 水龍子
特選句 選評
小林 美成子

さみだるる四か国語のアナウンス   東京都葛飾区   本田 英夫
 デパートなどで日本語のほか英語、中国語、韓国語などのアナウンスをよく耳にするようになった。さみだれの雨音と、異国語のイントネーションとが相互効果をもたらし、現代の社会現象が巧みに表現されている。

遠雷や速達開く鋏置く        神奈川県平塚市  髙橋 勝久
 配達員から直接手渡しされる速達便は、受け取る際に普通郵便とは異なる微かな緊張感を覚えものだ。季語の遠雷と、慎重に開封するための「鋏置く」の措辞にその特別な感覚が良く出ている。一寸した日常の感覚が詩となった作品。

阿蘇の千里うるほす男梅雨     福岡県福岡市   大坪 瑞季
 大自然の営みをダイナミックに詠んだ句。牛の放牧で有名な阿蘇の草千里に激しく降り続く雨。「男梅雨」の斡旋と共に、梅雨明け後の豊かな牧草地を予想させる「千里うるほす」の措辞が秀逸。元句の「うるおす」を文語体の「うるほす」に添削。

林 さわ子 

紫陽花の大きく撥ねる今朝の雨    富山県富山市  谷  光恵
 紫陽花に強い雨が落ち、その反動で紫陽花が枝ごと撥ねた光景。「大きく撥ねる」と言ったことで重たげな紫陽花の様子が想像され、雨と紫陽花の姿の豊かさを感じさせる。

真青なる禰宜の袴や海開き      岐阜県岐阜市  辻  雅宏
 山岳信仰の山開きに倣って安全・豊漁祈願をするようになった海開き禰宜の袴が真青であると言うことで、夏の青い海や空の眩しさ、浜辺の風の輝きを愛でる気持ちが伝わる。

ふしくれの指しなやかに祭笛     広島県広島市  林 己紀男
 日頃は肉体労働の多い男性か。その節くれの指が意外なしなやかさで、巧みに笛を吹いている。祭りのために日々、修練してきた証しだ。祭りの楽しさ、笛を吹く喜びを伝えてくれる。

第66回 令和2年 6月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇籐椅子に父の居さうな忌日かな   岐阜県岐阜市    辻  雅宏
〇罌粟坊主揺れて明日は晴になる   大阪府東大阪市   森  教安
〇白百合や待合室の椅子に×点    香川県高松市    西  教子
 夏蝶を追いかけ母を忘れ来し    岩手県洋野町種市  三河 えつこ
 ふるさとの駅舎自在に燕の子    千葉県松戸市    吉沢 美佐枝
 引き算の余生となりて冷奴     千葉県松戸市    吉沢 美佐枝
 どの粒も動いてをるやかたつぶり  東京都葛飾区    本田 英夫
 ことごとく彫像群は夏草に     神奈川県横浜市   龍野 ひろし
 花茣蓙の跡のつきたる肘枕     神奈川県横浜市   龍野 ひろし
 紫陽花を手向け母の忌修しけり   岐阜県岐阜市    辻  雅宏
 薄き皿多き卓袱台夏は来ぬ     愛知県津島市    正木 羽後子
 人恋へば縞あざやかや熱帯魚    滋賀県大津市    中村 良一
 梅雨晴や進水式の紙吹雪      広島県呉市     谷本 佳子
 此処よりは男坂なり山法師     福岡県福岡市    森内 梅子
 清濁を併せ飲む貌がまがえる    福岡県福岡市    大坪 瑞季
林 さわ子 選

〇胸張りて神の使ひの羽抜鳥      千葉県松戸市    吉沢 美佐枝
〇揺れ止みてアカシヤの花匂ひ立つ   神奈川県横浜市   中島 聖華
〇青梅の一つひとつの重さかな     三重県四日市市   後藤 允孝
 夏蝶は上を行くらし高架橋      東京都葛飾区    本田 英夫
 花茣蓙の跡のつきたる肘枕      神奈川県横浜市   龍野 ひろし
 小流れにひかりの舞ひて花菖蒲    富山県小矢部市   福江 真子
 籐椅子に父の居さうな忌日かな    岐阜県岐阜市    辻  雅宏
 雨蛙青き広葉の隅にをり       広島県呉市     谷本 佳子
 鉄線花おちこち蔓の游ぎけり     広島県呉市     谷本 佳子
 梅雨晴や進水式の紙吹雪       広島県呉市     谷本 佳子
 大師堂垣根を出づる鉄線花      広島県大竹市    西亀
 泡盛にキキリはじける角氷      広島県大竹市    西亀
 クレーンの動く天辺雲の峰      広島県広島市    林 己紀男
 濡れ縁に人影動く春障子       広島県広島市    林 己紀男
 梅雨晴の棚田の向こう波光る     愛媛県松山市    杉山 育代
 此処よりは男坂なり山法師      福岡県福岡市    森内 梅子
 主亡き家に張り付く女郎蜘蛛     宮崎県延岡市    金子 あさ子
高校生の部
小林 美成子 選

宇治まつり啓太君との初デート    福井県坂井市   小林 陸人
美穂ちゃんの草笛の音よ夕風よ    福井県坂井市   小林 陸人
林 さわ子 選

吾は少女あを野に座る君を見る   福井県坂井市   小林 陸人
美穂ちゃんの草笛の音よ夕風よ   福井県坂井市   小林 陸人
小学生の部
小林 美成子 選

幹にまでぽんぽんと咲く花火かな  スウェーデン   理紗 Elmwall
林 さわ子 選

幹にまでぽんぽんと咲く花火かな  スウェーデン   理紗 Elmwall
特選句 選評
小林 美成子

籐椅子に父の居さうな忌日かな    岐阜県岐阜市    辻 雅宏
 生前、父上が愛用されていた籐椅子。歳月と共に更に飴色を深めた籐椅子に、今も父上の温もりを感じている作者。昔懐かしい籐椅子と云うアイテムだからこそ「父の居さうな」の措辞が効いている。

罌粟坊主揺れて明日は晴になる    大阪府東大阪市   森 教安
 作者には明日何か良いことがあるのかしら。一斉に風に揺れる罌粟坊主に明日の晴を確信している「明日は晴になる」のフレーズが若々しい。
読む者も明るくポジティブな気分になる句。

白百合や待合室の椅子に×点     香川県高松市    西 教子
 人との距離を保つソーシャルディスタンスが求められている今を鋭く掬い取った句。椅子に記された大きな×印と清楚な百合の花との落差が緊張感を生んでいる。
下五は「椅子に×(ばつ)」と言い切った方がインパクトが出るのでは。
林 さわ子

胸張りて神の使ひの羽抜鳥     千葉県松戸市   吉沢 美佐枝
 羽抜鶏が威勢が良い、との句は少なくないが、これは神の使いとして神苑で飼われている羽抜鶏。「胸張りて」が神の使いらしい落ち着いた行動を想像させてユーモラス。

揺れ止みてアカシヤの花匂ひ立つ  神奈川県横浜市  中島 聖華
 日本でアカシヤと呼ばれているニセアカシヤの花だろう。芳香がある。揺れるアカシヤの梢、風が止んだ一瞬に沢山の白い花房が一層濃く匂ったと感じた。アカシヤの姿をよく伝えている。
 
青梅の一つひとつの重さかな    三重県四日市市  後藤 允孝
 青梅の収穫だろうか。手に取った時のきれいな色や形、手ざわりを愛でながらの作業であることを「一つひとつの重さ」から感じさせる。

 

第65回 令和2年 5月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇葉桜や伝記は最期のページから    岩手県洋野町種市  三河 しおん
〇お巡りさんと路上の八百屋春の昼   東京都葛飾区    本田 英夫
〇見上げ来て城に見下ろす花の雲    神奈川県横浜市   中島 聖華
 ニコライの八端十字風薫る       千葉県松戸市    吉沢 美佐枝
 春惜しむ内ポケットから半券      東京都葛飾区    本田 英夫
 飴切の軽きリズムや夏に入る      神奈川県横浜市   龍野 ひろし     
 花吹雪向き定まらぬ風見鶏       神奈川県横浜市   中島 聖華
 選ばれて首つままれし子猫かな     神奈川県小田原市  白石 正彦
 特養に母の日知らぬ母を訪ふ      岐阜県岐阜市    辻  雅宏
 メーデーに一度も行かず古稀迎ふ    大阪府東大阪市   森 教安
 目の奥の暗闇怖し武者人形       大阪府東大阪市   森 教安
 地下足袋とヘルメットのまま三尺寝   兵庫県神戸市    松本 哲
 逆立ちをしてモンシロチョウと同じ視線 奈良県奈良市    相沢 はつみ
 山水に冷し円座へ水羊羹        広島県大竹市    西亀
 谷底の老人ホーム椎落葉        福岡県福岡市    森内 梅子
林 さわ子 選

〇はいはいの嬰やたんぽぽ見つけたり  東京都葛飾区    本田 英夫
○山肌を一太刀にして那智の滝     三重県四日市市   後藤 允孝
 夏霧を切りゆく先へNike立てり      岩手県洋野町種市  三河 しおん
 ニコライの八端十字風薫る       千葉県松戸市    吉沢 美佐枝
 春惜しむ内ポケットから半券      東京都葛飾区    本田 英夫
 飴切の軽きリズムや夏に入る      神奈川県横浜市   龍野 ひろし
 川舟の竿のしなりや青葉風       神奈川県横浜市   龍野 ひろし
 見上げ来て城に見下ろす花の雲     神奈川県横浜市   中島 聖華
 選ばれて首つままれし子猫かな     神奈川県小田原市  白石 正彦
 山一つ越えて故郷おそ桜        長野県岡谷市    和田 イチ子
 釦二つ外して胸に初夏の風       岐阜県岐阜市    辻  雅宏
 雨一過蚯蚓の紅の甦る         滋賀県大津市    中村 治美
 逆立ちをしてモンシロチョウと同じ視線 奈良県奈良市    相沢 はつみ
 軒の蜘蛛四方に渡せる糸光り      広島県大竹市    西亀
 山水に冷し円座へ水羊羹        広島県大竹市    西亀

高校生の部
小林 美成子 選

 雲海や嗚呼(ああ)あの山が阿蘇山か   福井県坂井市   小林 陸人
 こんな炎ゆる日に修学旅行だなんて   福井県坂井市   小林 陸人
林 さわ子 選

 雲海や嗚呼(ああ)あの山が阿蘇山か   福井県坂井市   小林 陸人
 こんな炎ゆる日に修学旅行だなんて   福井県坂井市   小林 陸人
小学生の部
小林 美成子 選

 春の雨ドレミを歌う私も傘も     千葉県千葉市   和田 千
 ランドセル毎朝なでるコロナいや   千葉県千葉市   和田 千
 かえるくんケロケロうるさい一年生  千葉県千葉市   和田 千
林 さわ子 選

〇春の雨ドレミを歌う私も傘も    千葉県千葉市   和田 千
 ランドセル毎朝なでるコロナいや   千葉県千葉市   和田 千
 かえるくんケロケロうるさい一年生  千葉県千葉市   和田 千
特選句 選評
小林 美成子

葉桜や伝記は最期のページから   岩手県洋野町種市  三河 しおん
 伝記の終末期の章にこそ、その人物の集大成を見ることが出来るという解釈と、
読みかけの伝記がいよいよ最期の章となったという二つの解釈が成り立つが、どちらの読みでも成功している句。「葉桜」の季語の力のせいか。

お巡りさんと路上の八百屋春の昼  東京都葛飾区    本田 英夫
 二者を並立しただけの内容だが、交番の巡査と朝市の八百屋との交流の景が目に浮かぶ。「お巡りさん」に地域に馴染んだ巡査の人物像が出た。春の昼も良かった。

見上げ来て城に見下ろす花の雲   神奈川県横浜市   中島 聖華
 「見上げ来て城に見下ろす」の巧みな表現により作者の視点の移動が読者を誘導。眼下に広がる花の雲を共に見下ろしているような臨場感がある句となった。
林 さわ子

はひはひの嬰やたんぽぽ見つけたり 東京都葛飾区    本田 英夫   
 野外で遊ばせている赤ん坊、活発にはいはいをして好奇心旺盛である。
タンポポを見つけて声をあげる赤ん坊の様子が「見つけたり」に集約されており、愛らしい情景が伝わる。                   

山肌を一太刀にして那智の滝    三重県四日市市   後藤 允孝       
 日本三名瀑のひとつ那智の滝。遠く熊野灘からも見えるこの滝の姿を「一太刀にして」と力強く表現。古くから御神体とされてきた滝の轟き、輝きが伝わる。        
                    
春の雨ドレミを歌う私も傘も    千葉県千葉市    和田 千(小学生)
 傘をさして歩く作者は小学生。傘に落ちる雨の音をド、ㇾ、ミと感じたのだろう。
楽しくなって作者も傘と一緒に歌う。「ドレミを歌う私も傘も」と、瑞々しい喜びを教えてくれる。

第64回 令和2年 4月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇綱放し犬預けたる春野かな       神奈川県横浜市   龍野 ひろし
〇ノンちゃんの乗つてゐさうな春の雲   岐阜県岐阜市    辻 雅宏
〇スケジュール白紙に戻し亀鳴けり    福岡県福岡市    森内 梅子
 出せぬまま古りゆく文や花の雨      岩手県洋野町種市   三河 しおん
 ウイルスに摘む人もなき土筆かな     埼玉県吉川市     石井 カズオ
 川風の梳きゆく雀隠れかな        千葉県松戸市     吉沢 美佐枝
 騎馬像の義家公や新樹燃ゆ        千葉県松戸市     吉沢 美佐枝
 海峡の気流を捉へ鶴引けり        千葉県松戸市     吉沢 美佐枝
 三月や連山白く遠にあり         富山県小矢部市    福江 真子
 AIと俳句を競ふ万愚節         富山県小矢部市    福江 真子
 春の土こぼして行けりダンプカー     岐阜県岐阜市     辻 雅宏
 白木蓮柳生の里は奥深し         滋賀県大津市     中村 良一
 糶市に向かふ牛の背春の泥        広島県広島市     林 己紀男
 蝶々はストロを巻いてつぎつぎと     福岡県北九州市    高野 裕治
林 さわ子 選

〇春の坂ボールどこまで転びゆく    岩手県洋野町種市  三河 しおん
○振り返る又振り返るさくら道     千葉県千葉市    和田 周平
○川風の梳きゆく雀隠れかな      千葉県松戸市    吉沢 美佐枝
 出せぬまま古りゆく文や花の雨      岩手県洋野町種市   三河 しおん
 綱放し犬預けたる春野かな        神奈川県横浜市    龍野 ひろし
 川下る竿のしなりや風光る        神奈川県横浜市    龍野 ひろし
 三月や連山白く遠にあり         富山県小矢部市    福江 真子
 AIと俳句を競ふ万愚節         富山県小矢部市    福江 真子
 制服のスカートくるり迎春花       長野県岡谷市     和田 イチ子
 臥す父に小ぶりなれども桜鯛      三重県四日市市    後藤 允孝
 さざなみの風に生まるる代田かな    滋賀県大津市     中村 治美
 種袋振る耳元や農具小屋        広島県広島市     林 己紀男
 山彦や駆け出す子らの手に蕨      広島県大竹市     西亀
 池の面にヘラブナ跳ねて明日は初夏   愛媛県新居浜市    加島 一善
高校生の部
小林 美成子 選

春の鳶わが天むすを奪ひたり       福井県坂井市   小林 陸人
春の野やうつらうつらと群(むら)雀     福井県坂井市   小林 陸人
林 さわ子 選

春の鳶わが天むすを奪ひたり       福井県坂井市   小林 陸人
春の野やうつらうつらと群(むら)雀     福井県坂井市   小林 陸人
特選句 選評
小林 美成子

綱放し犬預けたる花野かな     神奈川県横浜市   龍野 ひろし
 リードを解かれ弾かれたように野に飛び出す愛犬。もはや飼主の制御は不可能。「犬預けたるの」の独自の把握が光る句。「花野」は秋の季語である事は作者もご承知かと思うが、句会では当季の句で日本の四季の移ろいを皆で共有したい。

ノンちゃんの乗つてゐさうな春の雲   岐阜県岐阜市    辻 雅宏  
 家に籠る日が続き、私も「春雲の行方見ている家居かな」の句を作った。
この句の様な柔軟な心で雲を眺めることが出来たら、自粛生活も楽しくなることだろう。もう一度『ノンちゃん雲に乗る』が読みたくなった。

スケジュール白紙に戻し亀鳴けり  福岡県福岡市    森内 梅子
 コロナ禍のさ中、「スケジュール白紙に戻し」のフレーズが、今日本中で起きている様々な事態を想起させ、胸に刺さるものがある。抑制の効いた「亀鳴けり」の季語に救いがある。
林 さわ子

春の坂ボールどこまで転びゆく   岩手県洋野町種市  三河 しおん
 遊んでいると、ボールが路へ転がり出すことがある。坂道であればどんどん転がっていく。春だから果てもなく転がっていくのかと、「どこまで」の措辞に愉快な気分になる。ボールの持ち主は困るのだが。

振り返る 又振り返る さくら道   千葉県千葉市    和田 周平
 満開の桜並木を想像する。見事な桜を惜しみ、見とれて歩く作者の感動が「振り返る又振り返る」という表現から伝わってくる。もう会えない誰かを探しているようでもあり、はかなさも感じさせる。 
 
川風の梳きゆく雀隠れかな     千葉県松戸市    吉沢 美佐枝
 川の土手だろうか。草が芽を出し、雀隠れの丈になった。未だ小さな草ながら、風に応えて動くのが見えた。見落としてしまいそうな春野の光景を捉えており、草萌えの季節の清々しさが伝わる。 

第63回 令和2年 3月の募集
一般の部
小林 美成子 選

ティースプーンおくや蛙の目借時  神奈川県平塚市  髙橋 勝久
〇春昼や子を寝かす手の眠りたる   三重県四日市市  後藤 允孝
 雛納め終の棲家のワンルーム     岩手県洋野町種市 三河 しおん
 白鳥帰る天と呼ぶべき高さもて    埼玉県吉川市   石井 カズオ
 シャガールの青深々と冴返る     千葉県松戸市   吉沢 美佐枝
 春昼やページ進まぬ本を伏せ     神奈川県横浜市  中島 聖華
 花辛夷今年も開く地震の地に     神奈川県小田原市 白石 正彦
 籐椅子の仔猫のあくび春の昼     長野県岡谷市   和田 イチ子
 潮風となりし声なり震災忌      愛知県津島市   正木 羽後子
 いぬふぐりマラソン人が駆け抜ける  滋賀県大津市   中村 良一
 おのずから揃う長さや蕨取り     滋賀県大津市   中村 良一
 春の灯を散らすやガレの色硝子    愛媛県新居浜市  加島 一善
林 さわ子 選

〇嘴先をひかり零れて春の水     埼玉県吉川市   石井 カズオ
〇梅東風や学位記の文字ふくよかに  富山県小矢部市  福江 真子
〇春昼や子を寝かす手の眠りたる   三重県四日市市  後藤 允孝
 水先はオホムラサキや奥の院     岩手県洋野町種市 三河 しおん
 白鳥帰る天と呼ぶべき高さもて    埼玉県吉川市   石井 カズオ
 こけそうでこけぬ幼子風光る     神奈川県横浜市  龍野 ひろし
 富士捉えたる春光のファインダー   神奈川県横浜市  龍野 ひろし
 春昼やページ進まぬ本を伏せ     神奈川県横浜市  中島 聖華
 薄氷のせせらぎ微か道祖神      長野県岡谷市   京  真如
 潮風となりし声なり震災忌      愛知県津島市   正木 羽後子
 満開の桜に会へり峠道        広島県呉市    谷本 佳子
 春の灯を散らすやガレの色硝子    愛媛県新居浜市  加島 一善
 佐保姫の東下りか絹の雲       福岡県福岡市   森内 梅子
高校生の部
小林 美成子 選

〇関東は外出自粛鑑三忌       福井県坂井市   小林 陸人
 草田男の薄き白髪に春嵐        福井県坂井市    小林 陸人
林 さわ子 選

 三匹の小犬と遊ぶ小猫かな     福井県坂井市    小林 陸人
 草田男の薄き白髪に春嵐      福井県坂井市    小林 陸人
特選句 選評
小林 美成子

ティースプーンおく蛙の目借時   神奈川県平塚市  髙橋 勝久
 眠気を誘う春の午後のティータイム。ソーサーに小さな音を立てて置かれるティースプーン。シンプルな仕立てで春の雰囲気がよく出ている。

春昼や子を寝かす手の眠りたる   三重県四日市市  後藤 允孝
 お昼寝の子の背中を優しく叩いていた母の手の方が先に眠ってしまった。平和な母子像をユーモラスに描いている。下五は「眠りをり」としたい。

関東は外出自粛鑑三忌       福井県坂井市  小林 陸人(高校生)
 今世界で起きていることを俳句にした高校生の作者の挑戦に拍手。
今受難の中にある人々に、キリスト者内村鑑三の忌日を斡旋したのも見事。
林 さわ子

嘴先をひかり零れて春の水     埼玉県吉川市   石井 カズオ
 鷺だろうか、水の中を啄んで首を上げたその嘴から雫が落ちる。その一瞬を「ひかり零れて」と捉えた。輝く春の水辺が目に浮かぶ。
                           
梅東風や学位記の文字ふくよかに  富山県小矢部市  福江 真子
 学士か修士か、めでたく学位を修めて卒業となった。固い学問の学位記の墨文字がふくよかであると言う。梅東風と響き合い、学問の厳しさを越えてきたことへの祝福がある。
                   
春昼や子を寝かす手の眠りたる   三重県四日市市  後藤 允孝
 添い寝して赤子を眠らせようとしている母親。とんとんと優しく子をたたいていた手が止まり、母親も眠ってしまった。春昼らしい実感のある光景だ。母子への愛情も伝わる。

第62回 令和2年 2月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇巌を噛む涛の飛沫や野水仙      神奈川県横浜市  中島 聖華
〇春愁や折り目の残る俳誌かな     神奈川県横浜市  龍野 ひろし
〇獺祭てふチョコも売られて二月かな  富山県小矢部市  福江 真子
 さんざめき落つる暗渠や春の水     栃木県塩谷郡   川原 さんぽ
 カレンダーに予定書き入れ春兆す    埼玉県深谷市   潟淵 恵美子
 ひと尋の翼二搏ち大白鳥        埼玉県吉川市   石井 カズオ 
 夕映えやペン画のさまに枯木立     千葉県松戸市   吉沢 美佐枝
 春来るタクトに踊るバイオリン     神奈川県横浜市  龍野 ひろし
 如月の白浪高き夫婦岩         愛知県津島市   正木 羽後子
 千の花火開く如くにミモザ咲く     大阪府東大阪市  森  教安
 室の花つと匂ひ立つにはか雨      兵庫県神戸市   柴原 明人
 あるじなき裏山の梅盛りなり      広島県呉市    谷本 佳子
 島つなぐポンポン船や春の海      愛媛県新居浜市  加島 一善
林 さわ子 選

〇如月の白浪高き夫婦岩        愛知県津島市   正木 羽後子
〇雲梯に踊る子の足春来る       三重県四日市市  後藤 允孝
〇春めくや黄のブラウスに目の止まり  富山県射水市   伊藤 佳子 
 なまぬるき夜道の呼吸土の春      埼玉県塩谷郡   川原 さんぽ
 カレンダーに予定書き入れ春兆す    埼玉県深谷市   潟淵 恵美子
 ひと尋の翼二搏ち大白鳥        埼玉県吉川市   石井 カズオ 
 遠富士をまたぎて架かる冬の虹     長野県岡谷市   和田 イチ子
 手をつなぎオリオン仰ぐ姉妹      長野県岡谷市   京  真如
 手作業の畝立てゆるし山笑ふ      大阪府大阪市   山中 紅萼
 千の花火開く如くにミモザ咲く     大阪府東大阪市  森  教安
 あるじなき裏山の梅盛りなり      広島県呉市    谷本 佳子
 島つなぐポンポン船や春の海      愛媛県新居浜市  加島 一善  

特選句 選評
小林 美成子

巌を噛む涛の飛沫や野水仙   神奈川県横浜市  中島 聖華

越前や伊豆の水仙郷が目に浮かぶ。崖を打つ涛しぶきに雪崩れるように咲く水仙の大群生。俳句の作法に則り景がきっちりと詠まれている。

春愁や折り目の残る俳誌かな   神奈川県横浜市  龍野 ひろし

雑誌に残る折り目に春愁を感じている作者の感覚が個性的。
但し一句に「や」「かな」の二つの切れが入ると感動が分散されてしまうので
〈春愁や折り目の残る同人誌〉などとして句を整えたい。

獺祭てふチョコも売られて二月かな   富山県小矢部市  福江 真子

 バレンタインデーのチョコ売り場にあの有名な銘酒の名を冠したチョコを発見してびっくりしている作者。日常のちょっとしたトピックも俳句の材料になることをこの句は示している。

林 さわ子

如月の白波高き夫婦岩   愛知県津島市  正木 羽後子
 如月は陰暦二月。まだ寒いが、日差しは輝き始める。夫婦岩を打つ白波がことに高く、真白に砕ける光景だ。波の厳しさ、輝く白さが如月の季語で表現された。

雲梯に躍る子の足春来たる    三重県四日市市  後藤 允孝
 右手、左手と交互に横棒を掴んでは、次々と雲梯を進んで行く子ども。勢いを付け、バランスを取るのが足だ。その大きく動く足に目をとめたのが良かった。躍動感があり、春らしい。                
春めくや黄のブラウスに目の止まり   富山県射水市  伊藤 佳子
 街を歩いていたのだろうか。飾ってあるブラウスに目を止めた。その黄色の明るさに春を感じた作者のちょっと嬉しい気持ちが想像される。                
                    
 

 
第61回 令和2年 1月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇膝の手が拳となりぬ寒稽古    三重県四日市市  後藤 允孝
〇瀬戸内の風しづかなり松飾    広島県大竹市   西亀
〇食積や大和は海の国と知る    福岡県福岡市   森内 梅子
 寒風の風吹き上ぐる親不知     埼玉県深谷市   潟淵 恵美子
 ガラス戸に小さき貼り紙蕨餅    埼玉県吉川市   石井 カズオ
 ふつふつと諸味息づく寒仕込    神奈川県横浜市  龍野 ひろし
 寒鰤漁網引く漁夫の反身かな    富山県富山市   谷  光恵
 雪国に雪の降らざる寒の入     富山県富山市   山下 貴子
 大寒や始発電車に一人きり     富山県富山市   山下 貴子
 バス降りてオリオン仰ぐ風の中   長野県      和田 イチ子
 川沿ひに朝市並ぶ寒日和      岐阜県岐阜市   辻  雅宏
 火焔噴く御用納めの焼却炉     愛知県津島市   正木 羽後子
 左義長の竹かつぎ来る男衆     広島県大竹市   西亀
 天狼や装飾古墳の酸化鉄      福岡県福岡市   森内 梅子
林 さわ子 選

ショパン弾く娘ははたち春隣   岐阜県岐阜市   辻  雅宏
〇膝の手が拳となりぬ寒稽古    三重県四日市市  後藤 允孝
〇焼芋をスーツの胸に抱へ来る   富山県小矢部市  松本 よね子
 寒風の風吹き上ぐる親不知     埼玉県深谷市   潟淵 恵美子
 紙漉ける水の重さや暮色濃し    千葉県松戸市   吉沢 美佐枝
 囲炉裏火に集ひ父母兄のこと    富山県小矢部市  野澤 多美子
 千枚漬と笑顔の写真届きたり    富山県小矢部市  野澤 多美子
 寒鰤漁網引く漁夫の反身かな    富山県富山市   谷  光恵
 大寒や始発電車に一人きり     富山県富山市   山下 貴子
 火焔噴く御用納めの焼却炉     愛知県津島市   正木 羽後子
 小春日や施設の母に逢ひにゆく   愛知県津島市   正木 羽後子
 春耕の人朝光の影となり      三重県四日市市  後藤 允孝
 瀬戸内の風しづかなり松飾     広島県大竹市   西亀
 麦踏や夫婦無言の頬かむり     愛媛県新居浜市  加島 一善
高校生の部
小林 美成子 選

 野良猫が野良猫を追ふ冬田かな  福井県坂井市  小林 陸人
林 さわ子 選

 野良猫が野良猫を追ふ冬田かな  福井県坂井市  小林 陸人
 独逸人燐家の炉辺に寛げり    福井県坂井市  小林 陸人
 新刊の俳誌読みつつ牡丹鍋    福井県坂井市  小林 陸人

特選句 選評
小林 美成子

膝の手が拳となりぬ寒稽古    三重県四日市市  後藤 允孝
 「膝の手」から正座の姿勢を連想、剣道や柔道などの寒稽古へと想像が及ぶ。激しく打ち合う竹刀の音や,乱取りの熱気に、正座の作者も次第に高揚し気合の入って行く様子を「拳となりぬ」と表現し秀逸。

瀬戸内の風しづかなり松飾    広島県大竹市   西亀
 波静かな新年の瀬戸内の大景をたっぷりと提示し、松飾りへと焦点を絞り込んでいく手法生きた句。このズームインの効果により下五の若松の緑が読む者に鮮やかに印象づけられる。

食積や大和は海の国と知る    福岡県福岡市   森内 梅子
 正月のおせちを彩るのは、何と云っても海老、蟹、鮑、数の子などの海産物だ。「大和は海の国と知る」の措辞には、改めて海洋国日本の豊かさとその恵みを実感し感謝している作者の気持が出ている。「海の国である」と断定しても面白い。
林 さわ子

ショパン弾く娘ははたち春隣   岐阜県岐阜市   辻  雅宏
 二十歳の娘さんがショパンを弾いている。それだけで明るく華やかだ。「春隣」の季語と「はたち」のめでたさに、これ以上はない輝きと幸せがあふれている。       

膝の手が拳となりぬ寒稽古    三重県四日市市  後藤 允孝
 凍えるような朝の寒稽古。座した膝に置いていた手が、あまりの寒さに力が入り、知らず知らず握り拳になっていたというのだ。厳しい寒稽古の実感が伝わる。         

焼芋をスーツの胸に抱へ来る   富山県小矢部市  松本 よね子
 会社の昼休みだろうか。焼芋を買って、急いで戻って来た。「スーツの胸に」に若い女性の姿が生き生きと表現され、明るい笑い声
が聞こえてくるようだ。