「雉」北陸地区のブログ

「雉」句会の活動を公開しています

雉ネット俳句2023

雉HP移転、担当者変更および新HPにおいては、

一切の過去のデータを受取る意志がないとの確認のもと、

以下、ネット俳句第一回からの記録を公開いたしました。

これは、これまで投句して下さった方への感謝の思いから、

前担当者が公開したのであり、

現雉HPには、一切の責任がないことを明記します。

 

 

「雉」ネット俳句入選作品集2023
令和5年「雉」ネット俳句入選作品集
第107回 令和5年 11月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇ひんやりと冬の序章や初時雨    静岡県富士宮市  遠藤 惠子 
〇ねんねこや赤子指より眠りだす   岡山県苫田郡   原 洋一 
〇箸拳と皿鉢料理と新走り      広島県広島市   ⑦パパ 
 喪の幕の取れてより柿干されけり  岩手県      しをん 
 風呂吹に疑ひ深き箸の穴      千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 ひとつ撞く鐘の余韻や寒夕焼    千葉県千葉市   玉井 令子 
 山茶花の垣根陸上競技場      千葉県千葉市   玉井 令子 
 背伸びして磨く硝子戸花やつで   神奈川県横須賀市 佐藤 けい 
 しぼり切るお茶の一滴冬に入る   静岡県島田市   裕子 
 菊ずくし菊の香ずくし花時計   静岡県島田市   裕子 
 山小屋に一人熱燗大晦日      静岡県浜松市   山下 正義 
 冬銀河オンザロックの溶ける音   三重県四日市市  後藤 允孝 
 冬ぬくし路面電車の軋む音     滋賀県大津市   中村 治美 
 病床のシーツの硬き初時雨     京都市左京区   草夕感じ 
 空いっぱい入れて紅葉の写真撮る  大阪府豊中市   西田 順紀 
 採用の二文字届く小春かな     大阪府枚方市   辻本 清子 
 初時雨フェリー定時に定位置に   和歌山県紀の川市 中島 紀生 
 冬空へつま先ぐんとヨガポーズ   福岡県福岡市   伊達 紫檀 
林 さわ子 選

〇背伸びして磨く硝子戸花やつで   神奈川県横須賀市 佐藤 けい 
〇冬ぬくし路面電車の軋む音     滋賀県大津市   中村 治美 
〇空いっぱい入れて紅葉の写真撮る  大阪府豊中市   西田 順紀 
 ひょんの笛わが空洞の音したる   埼玉県吉川市   石井カズオ 
 ひとつ撞く鐘の余韻や寒夕焼   千葉県千葉市   玉井 令子 
 銭湯へ時雨の傘の家族連れ     千葉県野田市   木村 鹿次 
 目を瞑り呼名待つ人秋深し     東京都葛飾区   本田 英夫 
 赤屋根のホテル閉ざされ冬に入る  神奈川県横浜市  龍野ひろし 
 冬ぬくし二匹の犬に添ひ寝され   福井県坂井市   小林 陸人 
 山小屋で一人熱燗大晦日      静岡県浜松市   山下 正義 
 寒暁や姿勢正しく黙祷す      静岡県富士宮市  遠藤 英二 
 冬薔薇五十年添ふ妻の逝く     三重県四日市市  後藤 允孝 
 夕照の瀬田の唐橋浮寝鳥      滋賀県大津市   中村 治美 
 病床のシーツ硬きや初時雨     京都市左京区   草夕感じ 
 冬耕や起こすひと鍬土の息     岡山県苫田郡   原 洋一 
 空に咲く木立ダリアや朝の道    広島県      紗藍 愛 
 供養塔桜落葉の降り敷きて     広島県広島市   表 孝征 
 落葉して小さくなりし慰霊碑よ   香川県仲多度郡  佐藤 浩章 
 冬空へつま先ぐんとヨガポーズ   福岡県福岡市   伊達 紫檀 
高校生の部
小林 美成子 選

焙煎の取手重たく春隣       群馬県前橋市   日下部友奏 
パンケーキふつふつ時雨止みさうな 群馬県前橋市   日下部友奏 
初雪や御朱印帳の重くなり     群馬県前橋市   日下部友奏
林 さわ子 選

焙煎の取手重たく春隣       群馬県前橋市   日下部友奏 
パンケーキふつふつ時雨止みさうな 群馬県前橋市   日下部友奏 
初雪や御朱印帳の重くなり     群馬県前橋市   日下部友奏
特選句 選評
小林 美成子 

ひんやりと冬の序章や初時雨    静岡県富士宮市  遠藤 惠子
 今年は秋になっても夏日を記録するなど異常気象が続いたが、昨今の朝夕の冷え込みに冬到来を実感するようになった。季節のあわいを敏感に感じ取る日本人の身体感覚が、美しく表現された句。

ねんねこや赤子指より眠りだす   岡山県苫田郡   原 洋一
ぐずっていた赤子が、持っていた玩具をパタッと落として寝落ちする様子は本当に愛らしい。そんな様を「指より眠りだす」とした表現に、幼いものに向ける作者の優しい眼差しを感ずる。

箸拳と皿鉢料理と新走り      広島県広島市   ⑦パパ
 箸拳は箸を使った土佐のお座敷遊び。皿鉢料理は、大皿に刺身、煮物、練り物、寿司など山海の季節の旬を豪華に盛り付けた土佐の郷土料理。そこに新走りとくれば酒好きの土佐っぽにはたまらない。
林 さわ子 

背伸びして磨く硝子戸花やつで   神奈川県横須賀市 佐藤 けい
 冬日の入る硝子戸。庭の八手の花を見ながら、おそらく大きな、その戸を磨いている。「背伸びして」の表現から、掃除の好きな明るい作者の姿が想像される。

冬ぬくし路面電車の軋む音     滋賀県大津市   中村 治美
 路面電車はどこか、のんびりしたイメージがあり、親しい存在。軋む音も、聞き慣れた日常の音だ。厳しい寒さよりも、「冬ぬくし」の季語によく似合う。         
                    
空いつぱい入れて紅葉の写真撮る  大阪府豊中市   西田 順紀
 見事な紅葉を見上げての撮影か。「空いっぱい」とは、「空いっぱいに」とのことと思われ、作者の感動や紅葉の美しさが伝わる。


第106回 令和5年  10月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇外したる耳環に温み十三夜     千葉県佐倉市   林 昭太郎
〇交はりて川の名一つ雁渡し     滋賀県大津市   中村 良一
〇螻蛄鳴く誰か来さうな木の扉    滋賀県大津市   中村 治美
 妻はプチ家出味噌汁に秋茄子    埼玉県東松山市  だっく
 久々にアルバムめくる夜長かな   千葉県我孫子市  鈴木 清
 捧げ持つ御饌に音して木の実落つ  千葉県野田市   木村 鹿次
 口笛に振り向く猫や夕月夜     千葉県船橋市   須藤 範子
 観楓や降りみ降らずみ山の雨    千葉県松戸市    吉沢美佐枝
 自転車を押して帰らう星月夜    神奈川県川崎市  立野 音思
 スコップに足乗せ深く秋耕す    岐阜県揖斐郡   横山 道男
 目を閉じて診察を待つ暮の秋    静岡県富士宮市  遠藤 惠子
 かくれんぼ稲架の襖に囲まれて   三重県四日市市  後藤 允孝
 亡き妻にここも来たねと秋の風   大阪府東大阪市  森 佳月
 サーカスの一座旅立つ十三夜    大阪府高槻市   葉月庵郁斗
 しずかなる海の呼吸や後の月    大阪市      そぼろ
 叡山の里坊閑か小鳥来る      滋賀県大津市   中村 良一
 地下街に矢印多し秋の声      京都市左京区   草夕感じ
 鉛筆の2Bが好き文化の日     岡山県苫田郡   原 洋一 
林 さわ子 選

〇道野辺の羅漢の顔に草の花     栃木県那須塩原市 垣内 孝雄
〇捧げ持つ御饌に音して木の実落つ  千葉県野田市   木村 鹿次
〇篝火のはじける音や月を待つ    大阪府豊中市   西田 順紀
 振袖の乙女の微笑秋うらら     千葉県千葉市   玉井 令子
 山門を出て竹林の月明り      福井県坂井市   小林 陸人
 秋暁や群青色の富士の山      静岡県富士宮市  遠藤 英二
 化野へ行く道細く秋の風      静岡県富士宮市  遠藤 惠子
 目を閉じて診察を待つ暮の秋    静岡県富士宮市  遠藤 惠子
 竹垣の男結びや冬支度       三重県四日市市  後藤 允孝
 かくれんぼ稲架の襖に囲まれて   三重県四日市市  後藤 允孝
 亡き妻にここも来たねと秋の風   大阪府東大阪市  森 佳月
 祝言の宴の真白き新豆腐      兵庫県神戸市   峰 乱里
 日向ぼこ亡き父母も来ていたり   兵庫県神戸市   峰 乱里
 木道の二つに分くる花野かな    奈良県奈良市   堀ノ内和夫
 鍬の柄の手擦れの痕や鰯雲     岡山県苫田郡   原 洋一
 湖の静けき光虫の声        広島県広島市   紗藍 愛
 妻の背を流す宿湯や虫時雨     大分県臼杵市   藤嶋 照久
高校生の部
小林 美成子 選

半額の遺言書買ふ文化の日     群馬県前橋市   日下部友奏 
小鳥来る洗い場に鞍残りけり    群馬県前橋市   日下部友奏 
林 さわ子 選

小鳥来る洗い場に鞍残りけり    群馬県前橋市   日下部友奏
特選句 選評
小林 美成子 

外したる耳環に温み十三夜     千葉県佐倉市   林 昭太郎

 アクセサリーの類は家に戻ると急に鬱陶しく感じられ、一刻も早く外したくなる。外したイヤリングに微かな自身の体温を感じたという繊細な瞬間を捉えた句。「十三夜」が情緒を添えている。

交はりて川の名一つ雁渡し     滋賀県大津市   中村 良一

 山間を流れ下ってきた何本もの支流が合流し、大河となって海へと注ぐ。「川の名一つ」に十勝川信濃川利根川筑後川などの河川の名が思い浮かぶ。大景を感じさせる「雁渡し」が良い。

螻蛄鳴く誰か来さうな木の扉    滋賀県大津市   中村 治美

 一句の雰囲気からログハウスなどの小さな木造の家を想像した。螻蛄の鳴く声に人恋しさが募る夜、「誰か来さう」と感ずるのも、温もりのある木の扉ならではである。
  林 さわ子 

道野辺の羅漢の顔に草の花     栃木県那須塩原市 垣内 孝雄

 親しみやすい羅漢さん達。古くから道野辺にあり、ほどほどに管理されている石の羅漢像か。「顔に草の花」から、地域の日常になっている羅漢さんの姿が想像される。   

捧げ持つ御饌に音して木の実落つ  千葉県野田市   木村 鹿次

 神職が神前へ御饌を運んでいる光景。そこへ木の実が音をたてて降ったという。神域で鈴など、音をたてるのは神を呼ぶためとされていることと相まって、豊かな実りを象徴するような光景だ。
            
篝火のはじける音や月を待つ    大阪府豊中市   西田 順紀

 観月会は、全てを司る月に日々の幸福と五穀豊穣を願う祭として、各地の神社で行われている。「はじける音」に臨場感があり、変わることのない人の営みがあることを伝える。

第105回 令和5年 9月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇一山がそのまま城址星月夜    滋賀県大津市  中村 良一 
〇間引き菜の笊いつぱいの軽さかな 岡山県苫田郡  原 洋一 
〇菊日和階段のなきドールハウス  群馬県前橋市  日下部友奏(高校生) 
 トスされし檸檬を囓るハーフタイム 埼玉県東松山市  だっく 
 山門に風の道ありこぼれ萩     千葉県      木村 鹿次 
 つぶやきを形にすれば吾亦紅    千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 足音にすり寄る猫や星月夜     千葉県船橋市   須藤 範子 
 消防署の朝の点呼や花カンナ    神奈川県横須賀市 佐藤 けい 
 空つぽのままの犬小屋秋の暮    神奈川県横浜市  龍野ひろし 
 秋天に槍先向くる陸上部      神奈川県横浜市  龍野ひろし 
 天高し修道院に一輪車       静岡県島田市   裕子 
 暇乞ひしての長居や秋夕焼     三重県四日市市  後藤 允孝 
 ベランダにひとり煙草や星流る   大阪府高槻市   葉月庵郁斗 
 長き夜のひとり見廻る無人ビル   大阪府高槻市   葉月庵郁斗 
 熊笹の雨の音聞く夜長かな     大阪府豊中市   西田 順紀 
 湯の花のにほひほのかに虫の宿   大阪府東大阪市  森 佳月 
 虫の声半身浴の耳に満つ      広島県広島市   紗藍 愛 
 陽を吸つて広く明るき刈田かな   広島県広島市   紗藍 愛 
林 さわ子 選

〇消防署の朝の点呼や花カンナ    神奈川県横須賀市 佐藤 けい
〇海を背に農学校の田刈かな     福井県坂井市   小林 陸人
〇港への広き急坂ななかまど     静岡県島田市   裕子
 新米はみんな笑つてゐるみたい     岩手県久慈市   佐藤 茂之
 絶えさうで絶えず海まで花野径     千葉県佐倉市   林 昭太郎
 宮島の波音しづか観月能        千葉県千葉市   玉井 令子
 つまべにの影の重なる真昼かな     千葉県松戸市   吉沢美佐枝
 とびとびに咲く曼珠沙華まんじゆしやげ 神奈川県川崎市  島  敏
 手習ひの蕎麦を打ちたる敬老日     神奈川県横浜市  龍野ひろし
 水切りを競う父と子川芒        岐阜県揖斐郡   横山 道男
 白萩や記憶零るる妻とゐて       三重県四日市市  後藤 允孝
 途中下車駅いちめんのコスモス野    滋賀県大津市   近江 菫花
 月さして八坂の塔へのぼる路      滋賀県大津市   中村 良一
 長き夜のひとり見廻る無人ビル     大阪府高槻市   葉月庵郁斗
 間引き菜の笊いつぱいの軽さかな    岡山県苫田郡   原 洋一
 おしあなやおらしよを誦する漁師たち  広島県広島市   ⑦パパ

高校生の部
小林 美成子 選

秋晴やトランペットで吹く校歌   群馬県前橋市   日下部友奏 
リモコンの一つもなくて良夜かな  群馬県前橋市   日下部友奏 
林 さわ子 選

秋晴やトランペットで吹く校歌   群馬県前橋市   日下部友奏 
リモコンの一つもなくて良夜かな  群馬県前橋市   日下部友奏 
特選句 選評
小林 美成子 

一山がそのまま城址星月夜     滋賀県大津市   中村 良一

 歴史の表舞台には登場しないものを含め、城址と云われる場所は日本各地に多数残っている。「一山がそのまま城址」に、満天の星空の下黒々と鎮もる山容と共に、この地方に伝わる歴史が想像される。

間引き菜の笊いつぱいの軽さかな  岡山県苫田郡   原 洋一

 発芽したばかりの間引き菜は、なんとも初々しく瑞々しい。笊いっぱいに摘まれた間引き菜はふんわりとしてまるで重さを感じさせない。理屈に合わない「いつぱいの軽さかな」の表現が面白い。

菊日和階段のなきドールハウス  群馬県前橋市  日下部 友奏(高校生)
 
 細々と作り込まれたドールハウスのリアルな家具や調度。だがその仕切られた空間をつなぐ階段がないという不合理。高校生の部の作品ながら視点の鋭さに感心した。季語は一考を。

林 さわ子 

消防署の朝の点呼や花カンナ    神奈川県横須賀市 佐藤 けい 

 消防は危険を伴う仕事。強靭な体力、気力を要することだろう。炎暑に負けないカンナの赤い花に、朝の点呼にきびきびと動く消防士の姿が重なる。
            
海を背に農学校の田刈かな     福井県坂井市   小林 陸人

 海に近い農業学校は各地にあるようだ。そんな学校の実習田か。生徒達が揃いの作業着で稲を刈る姿に、青い海と稔り田の黄金が明るく美しい。              

港への広き急坂ななかまど     静岡県島田市   裕子

 「広き急坂」から、一読して函館の真直ぐな坂を想像できる。坂の上から港を見下ろすと、真赤な「ななかまど」の並木が青い海に映えていたことだろう。

第104回 令和5年 8月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇定位置に刃物やすらふ良夜かな   千葉県佐倉市   林 昭太郎 
〇母ほどは優しくなれず墓洗ふ    静岡県島田市    裕子 
〇名水を汲む列につく原爆忌     兵庫県神戸市   峰 乱里 
 礼をして過ぎ行く子等や地蔵盆   千葉県野田市   木村 鹿次 
 SLの置かるる広場ゑのこ草     千葉県松戸市   吉沢美佐枝 
 殿に筵旗来る蟲送り        神奈川県大和市  ひろ志 
 レース編み仕上り烏瓜の花     神奈川県横浜市  幸子 
 広島忌総理の横のガードマン    福井県坂井市   小林 陸人 
 校舎いま鉄の空き箱夏休み     福井県坂井市   小林 陸人 
 うつむけば影やはらかし夏帽子   静岡県島田市   裕子 
 売られゆく仔犬眠るや星月夜    京都市左京区   草夕感じ 
 かなかなや般若寺過ぎて平城山へ  大阪府東大阪市  森 佳月 
 記憶なき母の遺影や彼岸花     大阪府高槻市    葉月庵郁斗 
 奈良坂や牛舎に白き秋桜      奈良県奈良市   西本 匠 
 八月や平和を学ぶ登校日      和歌山県紀の川市 中島 走吟 
 散り初めて萩に華やぎありにけり  岡山県苫田郡   原 洋一 
 結願の高野の森の蝉時雨      広島県広島市   表 孝征 
 敬老日昨日とさほど変わりなく   愛媛県新居浜市  加島 一善  

林 さわ子 選

〇風鈴の音色に稚児の目覚めをり  静岡県富士宮市  遠藤 英二 
〇名水を汲む列につく原爆忌    兵庫県神戸市   峰 乱里 
〇コスモスの径行く母の忌明けかな 大分県臼杵市   藤嶋 照久 
 切り株のたぶんなめ茸採りにけり 埼玉県東松山市   だっく 
 礼をして過ぎ行く子等や地蔵盆  千葉県野田市   木村 鹿次 
 殿に筵旗来る蟲送り       神奈川県大和市  ひろ志 
 天井の杉の柾目や涼新た     神奈川県横浜市   龍野ひろし 
 数覚え睡蓮の花数える児     神奈川県横浜市  幸子 
 秋めくや黒部ダム湖の水の色   岐阜県揖斐郡   横山 道男 
 翡翠の背の瑠璃色一閃す     静岡県富士宮市  遠藤 英二 
 夏空や日の本一の観覧車     大阪府豊中市   西田 順紀 
 線香の燃え尽くまでの墓参かな  兵庫県尼崎市   松井 博介 
 夏燕大極殿へと旋回し      奈良県奈良市   西本 匠 
 奈良坂や牛舎に白き秋桜     奈良県奈良市   西本 匠 
 軒下を掠むる光夏燕       広島県広島市   表 孝征 
 敬老日昨日とさほど変わりなく  愛媛県新居浜市  加島 一善 
 幼児を真中の窓や揚花火     岡山県赤磐市   典子  
特選句 選評
小林 美成子

定位置に刃物やすらふ良夜かな   千葉県佐倉市   林 昭太郎 

 箸茶碗の洗い物が済み、今日の厨仕事も終了である。主婦にとってほっとする時間。一日様々な食材を切り刻み、今は包丁立てに収まった包丁を「やすらふ」と捉えた感性と、良夜の斡旋が秀逸。

母ほどは優しくなれず墓洗ふ    静岡県島田市   裕子
 
 どの子にも分け隔てなく深い愛情をお注いでくれた母。現代の暮らしに比べ決して豊かではなかったが、母は強く優しかった。今の自分は母の様に寛容だろうか。手を合わせつつしきりに考える。

名水を汲む列につく原爆忌     兵庫県神戸市   峰 乱里 

 名水を汲むための短い列につく作者。 ペットボトルを満たす豊かな水の勢いに、あの日、ひと口の水を求めて彷徨った人々のことを、思わずにはいられない。季語は「広島忌」でも良かった。
林 さわ子 

風鈴の音色に稚児の目覚めをり   静岡県富士宮市  遠藤 英二 

 祭の休憩時間、あるいは日常の光景。疲れて眠っていた幼子が目を覚まし始めた。風鈴の鳴る涼しさに、よく眠れたのだろう。幼子子を見守る穏やかな眼差しを伝える。
    
名水を汲む列につく原爆忌     兵庫県神戸市   峰 乱里 

 各地に名水と言われる美味しい水があり、遠くまで汲みに行く人も少なくない。作者も
人気の名水を汲むために順番を待ち、ふと原爆で火傷を負い、水を求めながら死んだ人々を思う。水を選ぶ贅沢を思う。

コスモスの径行く母の忌明けかな  大分県臼杵市   藤嶋 照久 

 喪に服す期間が終わり、忌明けの法要の日だろうか。悲しみが深くなるのは、むしろ忌明けを過ぎてからとも言われる。作者の歩く道にコスモスがゆれ、亡き母の恩愛に励まされいる光景のようにも思われる。 

第103回 令和5年 7月の募集
一般の部
小林美成子 選

〇風鈴買ひ小さき風を連れ帰る     千葉県佐倉市   林 昭太郎 
〇いちにちをたたむ木槿の白さかな    千葉県松戸市   吉沢美佐枝 
〇梅雨明けや足の指にもある指紋    岡山県苫田郡   原 洋一 
 花茣蓙に母の眼鏡と文庫本      栃木県那須塩原市 垣内 孝雄 
 人生の次第に速し走馬灯       千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 ひまわりやエンドロールはまだ続く  神奈川県横浜市  龍野ひろし 
 法廷に立つ白シャツの被告人     福井県坂井市   小林 陸人 
 夕立や迎えの妻の薄化粧       岐阜県揖斐郡   横山 道男 
 願ふこと多くはあらず天の川     静岡県島田市   裕子 
 夏蝶の乗る山風の高さかな      静岡県島田市   裕子 
 開け放つ二間続きの夏座敷      静岡県富士宮市  遠藤 惠子 
 薫風や白杖に添ふ介助犬       三重県四日市市  後藤 允孝 
 蝉声の止めば山々遠くなり      滋賀県大津市   中村 治美 
 冷奴使う事なき夫婦箸        大阪府高槻市   葉月庵郁斗 
 河童忌やストレートで呑むウヰスキー  兵庫県尼崎市   松井 博介 
 ととのはぬ起筆の穂先梅雨の雷    岡山県苫田郡   原 洋一 
 すき引きの平鰤銀を纏ひけり     広島県広島市   ⑦パパ 
 花は葉に父は全共闘世代       中華人民共和国  楊 明枳 
林さわ子 選

〇花茣蓙に母の眼鏡と文庫本     栃木県那須塩原市  垣内 孝雄 
〇腹這ひに岩の感触清水汲む     神奈川県横浜市   龍野ひろし 
〇富士を背にプールを磨く水泳部   福井県坂井市    小林 陸人 
 捕虫網に振り回されてゐる子かな  埼玉県吉川市    石井カズオ 
 サングラスかければ無敵中学生   神奈川県川崎市   立野 音思 
 新しき御朱印帳や夏休み      神奈川県大和市   ひろ志 
 帰省子が手を振りながら歩きくる  福井県坂井市    小林 陸人 
 夏蝶の乗る山風の高さかな     静岡県島田市    裕子 
 開け放つ二間続きの夏座敷     静岡県富士宮市   遠藤 惠子 
 棹歌に合ひの手拍子涼み舟     愛知県北名古屋市  ゆう子 
 薫風や白杖に添ふ介助犬      三重県四日市市   後藤 允孝 
 供花絶えぬ祠ありけり登山口    大阪府豊中市    西田 順紀 
 擦り切れたユニホームの膝夏果てる 大阪府東大阪市   森 佳月 
 微笑を返す赤子のごとし虹     兵庫県神戸市    峰 乱里 
 日替りの朝顔父に供ヘけり     愛媛県新居浜市   加島 一善 
 日雇いや夏日に痩せて行く腕    大分県臼杵市    藤嶋 照久 
 まだ母の胸に寝息の初節句     大分県臼杵市    藤嶋 照久 

高校生の部
小林美成子 選

 むき出しのたましひのごと夏の星  群馬県前橋市  日下部友奏 
 蟬生まる孤独背負つて猫背かな   群馬県前橋市  日下部友奏 
林さわ子 選

 むき出しのたましひのごと夏の星  群馬県前橋市  日下部友奏 
 蟬生まる孤独背負つて猫背かな   群馬県前橋市  日下部友奏 
小学生の部
小林美成子 選

 朝早く学校行くのマジだるい     東京韓国学校 キムジュン 
 あおぞらを見つづけるのはだれだろう 東京韓国学校 アンメイビ 
 ミンミンと夜まで続くコンサート   東京韓国学校 イフィナ 
 夏休み夜空を見上げ月を見る     東京韓国学校 久貝響葵 
 なつの日にうちはがおどるぱたぱたと 東京韓国学校 キムソユリ 
 夏休み楽しいけれどしゅくだいが   東京韓国学校 キムレオ    
選者コメント
 小学生の選としては少し厳しいのですが「俳句は季節の実感を詠む詩」という基本を覚えてもらう為、夏の季語以外の句はいただきませんでした。
林さわ子 選

 春が来てまた新しい道歩く      東京韓国学校 ヨムユイ 
 朝早く学校行くのマジだるい     東京韓国学校 キムジュン 
 空ぶうく私の好きなわたあめが    東京韓国学校 イエナ 
 つゆの中光っている目黒いねこ    東京韓国学校 イムヨヌ 
 春の空はなびらをまく桜の木     東京韓国学校 キムルビ 
 秋のみちもみじたくさんあざやかだ  東京韓国学校 アンメイビ 
 あおぞらを見つづけるのはだれだろう 東京韓国学校 アンメイビ 
 さむい日にこたつの中でみかん食べ  東京韓国学校 アンメイビ 
 もう夏だあせがひかってふくが泣く  東京韓国学校 ジョンヒョンソン 
 ミンミンと夜まで続くコンサート   東京韓国学校  イフィナ 
 夏休み夜空を見上げ月を見る     東京韓国学校  久貝響葵 
 なつの日にうちはがおどるぱたぱたと 東京韓国学校  キムソユリ 
 夏休み楽しいけれどしゅくだいが   東京韓国学校  キムレオ 
 暑い日のソルタントマトおいしいな  東京韓国学校  イユリ 


第102回 令和5年 6月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇打ち明けてよりの沈黙ほたるの夜  千葉県佐倉市   林 昭太郎 
〇欄干のない橋渡り祇園祭      大阪府東大阪市 森 佳月 
〇鉛筆の芯の苦みや桜桃忌      奈良県奈良市  西本 匠 
 順番に鼻に白粉神輿の子      埼玉県吉川市  石井カズオ 
 蛍狩ちひさき橋も名をもちて    千葉県佐倉市  林 昭太郎 
 五月雨や香り初めたるパン焼機   東京都葛飾区  本田 英夫 
 廃業の米屋の軒や燕の子      神奈川県川崎市 立野 音思 
 たかんなのけもの光りや藪の中   静岡県富士宮市 遠藤 惠子 
 はらはらと下りくる雀山若葉    滋賀県大津市  中村 治美 
 万緑の深むや春日原始林      滋賀県大津市  中村 治美 
 あじさいの海およぎ切る車窓かな  京都府京都市  山内志津子 
 スプーンを添へて西瓜を供へけり   大阪府豊中市  西田 順紀 
 雨の日の席題となり白あぢさゐ   大阪府豊中市  西田 順紀 
 薫風の托鉢僧の袖通る       奈良県奈良市  堀ノ内和夫 
 ベロ藍の朝顔父に供へけり     愛媛県新居浜市 加島 一善 
 焼肉の匂ひしみたる古簾      愛媛県新居浜市 加島 一善 
 出入り口忙し蟻の昼下り      福岡県     伊達 紫檀 
林 さわ子 選

〇順番に鼻に白粉神輿の子      埼玉県吉川市    石井カズオ 
〇涼風やたゝみをはりし洗ひ物    神奈川県大和市  ひろ志 
〇スプーンを添へて西瓜を供へけり  大阪府豊中市    西田 順紀 
 雨上がり苔あをあをと禅の寺    千葉県千葉市   玉井 令子
 物干しを満艦飾につゆ晴れ間    千葉県      木村 鹿次
 新緑や小さき坂を呑み込みぬ    神奈川県川崎市  立野 音思
 銭湯や日焼の腕が背を流す     神奈川県横浜市  龍野ひろし
 草笛の子を先頭に進む列      福井県坂井市   小林 陸人
 たかんなのけもの光りや藪の中   静岡県富士宮市  遠藤 惠子
 ぶら下がり窓を拭く人梅雨の明け  京都府城陽市   宇田川成一
 化野やほはりと白き梅雨茸     京都府城陽市   宇田川成一
 なんとなく開け閉めするや冷蔵庫   大阪府高槻市   葉月庵郁斗
 青水無月兄の棺に孫の文      兵庫県尼崎市   松井 博介
 薫風や托鉢僧の袖通る       奈良県奈良市   堀ノ内和夫
 蜘蛛の巣を払いて至る山の墓    奈良県奈良市   西本 匠
 捕虫網大樹を囲み見上げをり    広島県呉市    谷本 佳子
高校生の部
小林 美成子 選

七月の混ざり合ひたる夢と夢    群馬県前橋市  日下部 友奏 
リビングの空っぽを乗せハンモック 群馬県前橋市  日下部 友奏 
林 さわ子 選

七月の混ざり合ひたる夢と夢    群馬県前橋市   日下部 友奏 
雷は白し自室の磨り硝子      群馬県前橋市   日下部 友奏

特選句 選評
小林 美成子 

打ち明けてよりの沈黙ほたるの夜  千葉県佐倉市  林 昭太郎 
 上五が「告白をして」であれば恋の予感の初々しさが感じられるのであるが、「打ち明けて」で少々不穏な雰囲気が。いずれにせよ 螢の闇にはミステリアスな雰囲気がつきまとう。

欄干のない橋渡り祇園祭      大阪府東大阪市 森 佳月 
 京都府相楽郡笠置町を流れる木津川に、欄干のない沈下橋が存在することをネットで初めて知った。「欄干のない橋渡り」は、この橋のことであろう。独自の視点から祇園会を詠んでいて新鮮。

鉛筆の芯の苦みや桜桃忌      奈良県奈良市  西本 匠 
 筆者も鉛筆を舐める癖がある。 舐めた時の舌の部位によっては、あの鉱物質の感触がひどく苦く感ずることがある。「恥の多い生涯を送って来ました」とする大宰の生涯を「芯の苦みや」が象徴。
林 さわ子 

順番に鼻に白粉神輿の子      埼玉県吉川市  石井カズオ 
 鼻の白粉は、非日常の領域に入るという意味だという。かしこまって並び、白粉を刷いてもらっているのだろうか。出番前の子ども達の神妙な顔が想像されて、愛らしい。   

涼風やたゝみをはりし洗ひ物    神奈川県大和市 ひろ志 
 干しておいた洗濯物を、ひとつひとつ畳む。畳み終わる頃にふと、涼風を感じた作者。家事に追われる中、ほっとする時間であることが伝わる。

スプーンを添へて西瓜を供へけり  大阪府豊中市  西田 順紀 
 本尊と先祖を祀る仏壇には、季節の花や食べ物が供えられる。この句では西瓜。「スプーンを添へて」という言葉から、身近な家族の位牌が祀られていることが伝わり、故人と愛情深く暮らしていたことを思わせる。  
 

第101回 令和5年 5月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇叔母に訊く母の話や豆の花     埼玉県吉川市   石井 カズオ 
〇みつみつと雲の湧きたつ四葩かな   神奈川県大和市  ひろ志 
〇断捨離をして出目金を飼ひにけり  愛知県北名古屋市 ゆう子 
 新任の女性警官柿若葉       岩手県久慈市   佐藤 茂之 
 強いられし家居の解けて夏近し   千葉県我孫子市  鈴木 清 
 昨日とは違ふ風着る更衣      千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 梅雨に入る湖西湖東と隔てなく   千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 捕虫網新幹線の中を行く      千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 次つぎに蟷螂の子や風に散り    千葉県船橋市   須藤 範子 
 参道に夜店の灯り戻り来ぬ     神奈川県川崎市  立野 音思 
 柿若葉イヤホーン付けて摘果人   岐阜県揖斐郡   横山 道男 
 ゴム手袋の疲れを吊るす夕薄暑   静岡県島田市   裕子 
 青魚煮詰めて八十八夜かな     静岡県島田市   裕子 
 一雨の一夜の背丈筍生ふ      滋賀県大津市   中村 治美 
 柚子の花移ろふ鳥の蕊こぼす    滋賀県大津市   中村 治美 
 畦一つ隔てて蝌蚪の国と国     京都府城陽市   宇田川 成一
 風薫るパリを拠点に地図の旅    京都府城陽市   宇田川 成一
 老犬の細き寝息や五月闇      奈良県奈良市   豚々舎休庵 
林 さわ子 選

〇捕虫網新幹線の中を行く      千葉県佐倉市   林 昭太郎 
〇母の日の大きな空を仰ぎけり    静岡県島田市   裕子 
〇鍬を横たへて見送る蓮如輿     大阪府豊中市   西田 順紀 
 叔母に訊く母の話や豆の花     埼玉県吉川市   石井 カズオ 
 今年また記念日妻と桜餅      千葉県我孫子市  鈴木 清 
 次つぎに蟷螂の子や風に散り    千葉県船橋市   須藤 範子 
 鬼灯の葉陰に花を数へけり     東京都葛飾区   本田 英夫 
 小型機の低空飛行朝ぐもり     静岡県富士宮市  遠藤 惠子 
 青魚煮詰めて八十八夜かな     静岡県島田市   裕子 
 漁師らの声の飛び交ふ浜暑し    三重県四日市市  後藤 允孝 
 若葉して糺の森に日の光      滋賀県大津市    中村 良一 
 雨上がり植田の風の匂ひけり    滋賀県大津市   中村 治美 
 畦一つ隔てて蝌蚪の国と国     京都府城陽市   宇田川 成一 
 縁側に茄子苗並べ祖母は留守     大阪府豊中市   西田 順紀 
 立たされ坊主廊下涼しく風通る   大阪府東大阪市  森 佳月 
 たかんなを土付きしままお裾分け  奈良県奈良市   堀ノ内 和夫 
 堰越えて水のた走る迎え梅雨     岡山県苫田郡   原 洋一 
 猫のゆく本堂裏の木下闇      広島県呉市    谷本 佳子 
高校生の部
小林 美成子 選

梅雨晴や切符の角のよく尖る    群馬県前橋市  日下部 友奏 
砂時計の中の世界のごとく雹    群馬県前橋市  日下部 友奏 
水鉄砲笑われてまた怒られて    群馬県前橋市  日下部 友奏 
林 さわ子 選

梅雨晴や切符の角のよく尖る    群馬県前橋市  日下部 友奏 
砂時計の中の世界のごとく雹    群馬県前橋市  日下部 友奏 
特選句 選評
小林 美成子 

叔母に聞く母の話や豆の花      埼玉県吉川市   石井 カズオ 

 母の妹である叔母によって語られる亡き母の思い出。作者の知り得なかった幼少時からの母のエピソードに、母への思慕を募らせる作者。季語の「豆の花」がこの句を決定づけた。

みつみつと雲の湧きたつ四葩かな   神奈川県大和市  ひろ志               
 みっしりと湧き立つ夏雲に呼応するように咲く大輪の紫陽花。という読みと、紫陽花の咲き様がまるで雲が湧き立つ様だ。とする二通りの読みを可能にする句。「みつみつ」のオノマトペが生きた句。 

断捨離をして出目金を飼ひにけり   愛知県北名古屋市 ゆう子 

懸案だった断捨離をやっと決行した。片付いた家の中は気持ちが良いが何か落ち着かない。そんな心の内を埋めるかの様に出目金を飼い始めた。人間心理の不思議を詠んだ句。「断捨離のあと」を「をして」に添削。
林 さわ子 

捕虫網新幹線の中を行く      千葉県佐倉市   林 昭太郎 

 家族揃っての帰省か、行楽か。子どもが白く大きな補注網を持って、新幹線に乗り込んでいるのを見たのだろう。嬉しくて張り切っている子どもの姿が伝わる。
      
鍬を横たへて見送る蓮如輿     大阪府豊中市   西田 順紀 

 浄土真宗の中興の祖、蓮如上人の御影の輿が京都市あわら市の間を往復する、春の行事。その輿を畑で見送っている。「横たへて」の表現から、静かに鍬を置いた様子や信仰に根ざした地域の暮らしが感じられる。  

母の日の大きな空を仰ぎけり    静岡県島田市   裕子 

 母の日にはカーネーションなど、贈り物のイメージが定着しているが、掲句はただただ大きな空を仰いだという。母の慈愛は「大きな空」に違いない。仰ぐばかりだ。


第100回 令和5年 4月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇置き去りにしてきしもののかげろへる 岩手県      しをん
〇咲きそむる表鬼門の沈丁花      大阪府豊中市   西田 順紀
〇レシートの777や五月晴      岡山県津山市   武本真寿子
 うぐひすのこゑや解体官舎跡     岩手県久慈市   佐藤 茂之
 大島の端から端を春一番       岩手県      しをん
 昼告げる有線放送燕来る       埼玉県東松山市  だっく
 自転車を追ひ抜いてゆく初燕     埼玉県吉川市   石井カズオ
 思ひ立ちひと駅歩く遅日かな     千葉県我孫子市  鈴木 清
 しやぼん玉吹けば生まるる百の空   千葉県佐倉市   林 昭太郎
 プルタブを引けば泡音風光る     千葉県佐倉市   林 昭太郎
 せせらぎの音に伸びゆく土筆かな   神奈川県川崎市  島 敏
 杖置きて歩いてみたりれんげ草    神奈川県川崎市  立野 音思
 寄せる波澄みて引きゆく春の磯    神奈川県平塚市  高橋 勝久
 雪解水堰に膨らみ迸り        神奈川県横浜市  幸子
 鯉のぼり村に久しき赤ん坊      三重県四日市市  後藤 允孝
 うららかや象のうんちが大人気    京都府城陽市   宇田川成一
 英字紙に包み豌豆貰ひけり      大阪府豊中市   西田 順紀
 お昼寝の胸に置きたる春帽子     岡山県津山市   江見東母子  
林 さわ子 選

〇杖置きて歩いてみたりれんげ草    神奈川県川崎市  立野 音思
〇ひこばえの株で一服峠道       神奈川県平塚市  高橋 勝久
〇校門におはようの声風光る      大阪府東大阪市  森 佳月
 レジ袋の麺麭へ散り込む桜かな    埼玉県吉川市   石井カズオ
 自転車を追ひ抜いてゆく初燕     埼玉県吉川市   石井カズオ
 初採りのそら豆匂う朝餉かな     千葉県我孫子市  鈴木 清
 春霞薄く棚引く田畑かな       千葉県野田市   木村 鹿次
 踏切の音はかなる日永かな      千葉県野田市   木村 鹿次
 新緑や日の斑ゆらめく寺の磴     千葉県松戸市   吉沢美佐枝
 土手の道行きつ戻りつ春惜しむ    東京都府中市   佐渡の爺
 雪解水堰に膨らみ迸り        神奈川県横浜市  幸子
 島の果春田の果の我が家かな     石川県金沢市   渡邊 古城
 清明の風吹け抜くる三千院      静岡県富士宮市  遠藤 英二
 そぞろ歩く人に紛れむ花明り     滋賀県大津市   杉浦 昭夫
 遠回りしてしばらくを花の下     滋賀県大津市   杉浦 昭夫
 川幅を覆ひ隠せる桜かな       滋賀県大津市   中村 治美
 うららかや象のうんちが大人気    京都府城陽市   宇田川成一
 空がゆれ山もゆらゆらしやぼん玉   京都府城陽市   宇田川成一
 舗装路の切れ目に土筆並びけり    大阪府豊中市   西田 順紀     

高校生の部
小林 美成子 選

図書館の窓惜春の軋みかな      群馬県前橋市   日下部友奏
惜春や乳牛の仔に名のありて     群馬県前橋市   日下部友奏
林 さわ子 選

図書館の窓惜春の軋みかな      群馬県前橋市   日下部友奏
惜春や乳牛の仔に名のありて     群馬県前橋市   日下部友奏
特選句 選評
小林 美成子 

置き去りにしてきしもののかげろへる   岩手県      しをん 
 
 この句の「置き去りにしてきしもの」とは物理的な何かというより、作者の過去に起きた様々な事象を指しているように思える。今となっては、すべてがかげろうの果てに揺らめいているばかりだ。

咲きそむる表鬼門の沈丁花        大阪府豊中市   西田 順紀 

 家の鬼門の方角に、南天や香りの良い植物を植えると良いとされている。この句のお宅は玄関の鬼門封じに沈丁花を植栽されている様だ。一句の落ち着いた雰囲気からこの家の風情が伝わってくる。

レシートの777や五月晴        岡山県津山市   武本真寿子 
 
 数字の7は幸運ナンバーとして認知されている。買い物のレシートの合計金額が、偶然にも7の三桁のぞろ目であったことにちょっと嬉しくなる作者。些細な日常を爽やかに切り取った句。
林 さわ子 

杖置きて歩いてみたりれんげ草      神奈川県川崎市  立野 音思 
 
 日頃、作者は杖を手離さずに歩くのだろう。畦道に来ると、蓮華草が群れ咲いていた。その春景色に励まされ、杖を置いて歩いてみた作者。蓮華草の咲く嬉しさ、懐かしさと希望を感じさせる。

ひこばえの株で一服峠道         神奈川県平塚市  高橋 勝久 

 峠道を歩くのは仕事ではなく、山歩きを楽しむ人か。そろそろ休もうと丁度良い切り株を見つけ、腰を降ろす。その切り株の瑞々しい櫱を愛でながら。春の山を歩く楽しさが伝わる。  

校門におはようの声風光る        大阪府東大阪市  森 佳月 

 子ども達の登校風景。何でもない日常だが、まだ寒さの残る季節、子ども達の命のひとつひとつの輝きも思われる。

 

第99回 令和5年 3月の募集
一般の部
小林美成子 選

〇まどろみの処どころに小鳥来る  岩手県      しをん 
〇棟上げの梁や柱や風光る     千葉県佐倉市   林 昭太郎 
〇先生の最後の抱つこ卒園す    岡山県津山市   武本真寿子 
 また増へし診察券や木の芽時   岩手県久慈市     佐藤 茂之 
 春愁や黄昏ながき海岸線     栃木県塩谷町     河原さんぽ 
 半仙戯寂し公営住宅地      群馬県前橋市(高校生)日下部友奏 
 花冷や一息に抜く烏賊の腸(わた) 千葉県佐倉市     林 昭太郎 
 花冷えの指で摘まみし琥珀糖   東京都        桜鯛 みわ 
 落ち椿蕊の輝き失はず      神奈川県横浜市    龍野ひろし 
 春光へ鶴のポーズの太極拳    愛知県北名古屋市   ゆう子 
 麦青む骨から伸びる少年期    三重県四日市市    後藤 允孝 
 溶接の白き火玉や桜東風     滋賀県大津市     中村 良一 
 野遊びや茣蓙に置かれし哺乳瓶  大阪府豊中市     西田 順紀 
 耳すまし百千鳥聴く磨崖仏    兵庫県神戸市     峰 乱里 
 春雨に釣り竿ふつと重くなり   奈良県奈良市     西本 匠 
 谷川の木橋越え来て若葉かな   奈良県奈良市     西本 匠 
 竹の子を剥けば吉野の匂ひけり  奈良県奈良市     西本 匠 
 春の灯や爪切る足の遠き指    岡山県苫田郡      原 洋一 
林さわ子 選

〇春めくや梢の先のほの赤し      千葉県我孫子   鈴木 清 
〇春月夜歩いて渡れそうな海      京都府城陽市   宇田川成一
〇先生の最後の抱つこ卒園す      岡山県津山市   武本真寿子 
 棟上げの梁や柱や風光る       千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 初花に立ち止まりけりベビーカー   千葉県千葉市   玉井 令子 
 たんぽぽやキャッチボールの母と子と 東京都西東京市  海老名 吟 
 花ミモザ袋小路を明るくし      神奈川県横浜市  幸子 
 墨堤の桜満開船だまり        神奈川県大和市  ひろ志 
 独り言増えてひとりの春炬燵     三重県四日市市  後藤 允孝 
 自転車のきこきこ過ぎぬ猫柳     滋賀県大津市   杉浦 昭夫 
 溶接の白き火玉や桜東風       滋賀県大津市   中村 良一 
 採寸の胸張る子らや桜咲く      大阪府高槻市   葉月庵郁斗 
 谷川の木橋越え来て若葉かな     奈良県奈良市   西本 匠 
 遠足の黄色の帽子列なして      広島県呉市    谷本 佳子 
 校庭を低く飛び交ふ燕かな      広島県呉市    谷本 佳子 
 山裾の野仏の上の初音かな      広島県広島市   表 孝征 
 春うらら母のむすびを食む昼餉    広島県広島市   紗藍愛 
高校生の部(5月追記)
小林 美成子 選

 半仙戯寂し公営住宅地        群馬県前橋市   日下部友奏
 蚕に名つける少女の手のひらよ    群馬県前橋市   日下部友奏
 太陽にあやされてゐて山笑ふ     群馬県前橋市   日下部友奏
林 さわ子 選

 半仙戯寂し公営住宅地        群馬県前橋市   日下部友奏
 蚕に名つける少女の手のひらよ    群馬県前橋市   日下部友奏
 
 この度、高校生の日下部友奏様(群馬県前橋市)が「一般の部」に分類されておりました。深くお詫び申し上げますとともに、「一般の部」においての入選をお慶び申し上げます。
特選句 選評
小林 美成子 

まどろみの処どころに小鳥来る      岩手県      しをん     
 孟浩然の詩「春眠暁を覚えず 処処啼鳥を聞く」の俳句バージョンとも云える句。しかし「まどろみの処どころ」など言葉の斡旋の妙により、漢詩とは異なる俳句的世界の表出に成功している。

棟上げの梁や柱や風光る         千葉県佐倉市   林 昭太郎  
 一句の「梁や柱や」からふんだんに木材を使用した伝統的な木造家屋の上棟式を想像した。「風光る」の季語からは、林立する柱の美しい木肌から放たれる良い香りまで伝わってくる。

先生の最後の抱つこ卒園す        岡山県津山市   武本 真寿子
 卒園の園児を一人一人抱き上げて別れを惜しむ先生。入園時には本当に幼かった子どもたちが確かな重みとなって今巣立っていく。先生の愛情と見守る作者の愛情が「最後の抱つこ」に表れている。
林 さわ子 

春めくや梢の先のほの赤し        千葉県我孫子   鈴木 清
 寒さがゆるむ頃、見上げた梢の先が赤味を帯びていると感じた作者。「ほの赤し」によって、木々の命と共に空気の冷たさも感じさせる。芽吹きの前の春らしさを上手くとらえた。 

春月夜歩いて渡れそうな海        京都府城陽市   宇田川 成一
 ぼんやりと濡れたような春の月夜。月明かりの海は、日常とは違う世界に見えたことだろう。「歩いて渡れそうな」という表現が幻想的な春月夜を伝える。

先生の最後の抱つこ卒園す        岡山県津山市   武本 真寿子
 子どもは抱っこが好きだ。やさしい先生にたくさん抱っこされて育った園を、巣立つ子ども達。
「最後の抱つこ」に子どもへの愛情と、先生への感謝があふれる。         
第98回 令和5年 2月の募集
一般の部
小林 美成子 選

カピバラの香箱座り残る雪    群馬県前橋市(高校生)日下部友奏
〇鳥雲に入るスーツケースはパンパン 埼玉県東松山市   ダック
〇指置けばくもる鍵盤春の雪     千葉県佐倉市    林 昭太郎
 如月のきざはし一段ずつ空へ    岩手県      しをん
 雛祭り小鳩くるみソノシート   埼玉県吉川市   石井カズオ
 地に届くまでのためらひ春の雪   千葉県佐倉市   林 昭太郎
 三月来ドレッシングをよく振れば  千葉県佐倉市   林 昭太郎
 梅ひらく筑波山麓たひらけし    千葉県千葉市   玉井 令子
 わさび田の日の斑風の斑水の綺羅  千葉県松戸市   吉沢美佐枝
 潮鳴りの沖より春の来りけり    神奈川県川崎市  島   敏
 春の灯やひとりになりし自習室   神奈川県大和市  ひろ志
 キューポラの失せたる町や春霞   三重県四日市市  後藤 允孝
 金輪際恋猫やがてただの猫     兵庫県神戸市 峰  乱里
 会釈して誰だったっけ春来る    岡山県津山市   武本真寿子
 水温むせせらぎの藻のながながと  広島県広島市   表  孝征
林 さわ子 選 

〇潮鳴りの沖より春の来りけり    神奈川県川崎市  島 敏 
〇花型に抜きしにんじん寒明くる   静岡県島田市   裕子 
〇水温むせせらぎの藻のながながと  広島県広島市   表 孝征 
 春の雪力を込めて杖握る      岩手県大船渡市  佐藤 茂之 
 如月のきざはし一段ずつ空へ    岩手県      しをん 
 都会っ子の声の明るさたらっペ摘む 栃木県塩谷町   河原さんぽ 
 溶岩原の千の地蔵や風車      栃木県那須塩原市 垣内 孝雄 
 梅ひらく筑波山麓たひらけし    千葉県千葉市   玉井 令子 
 防人の歌碑や初音の一度きり    千葉県松戸市   吉沢美佐枝 
 秒針の音やはらかくなつて春    東京都西東京市  海老名 吟 
 春の灯やひとりになりし自習室   神奈川県大和市 ひろ志 
 梅東風や一輪車の児駆け抜ける   神奈川県横浜市  東郷 佳人 
 春疾風絵馬の兎のをどり出て    三重県四日市市  後藤 允孝 
 ウクレレの弦のゆるみや寒の明   奈良県奈良市   西本 匠 
 独り居の部屋の四隅の余寒かな   岡山県苫田郡   原  洋一 
 春耕の土に返されいぼ蛙      広島県大竹市   西亀 
 剪定の影より鳥の飛び出せる    広島県大竹市   西亀 
 寒凪の果ての故郷(くに)指す王直像 中華人民共和国  楊  明枳 
特選句 選評
小林 美成子 

カピバラの香箱座り残る雪     群馬県前橋市 (高校生)日下部 友奏 

 猫の香箱座りはお馴染みだが、カビパラにこの言葉を当てはめたのが面白い。南米アマゾン由来のカピバラが四肢を折り畳んで寒さを凌いでいる姿が哀れであり、残る雪の季語が効いている。

指置けばくもる鍵盤春の雪        千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 
 窓の外は降りしきる春の雪。作者はポロンとピアノのキーに触れてみた。指先のかすかな体温で鍵盤が少しくもった。まだまだ春は遠い季節のあわいを繊細で奥行きのある感覚で捉えた句。

鳥雲に入るスーツケースはぱんぱん    埼玉県東松山市  ダック

 旅立ちの春。天上には北帰行の鳥影。地上には詰めるだけ詰め込んだスーツケースをごろごろと引く私。一句からは人生の様々な出発のシーンが思い浮かぶ。原句の「パンパン」を「ぱんぱん」と添削。
林 さわ子 

潮鳴りの沖より春の来たりけり      神奈川県川崎市  島  敏 
 
 春の海は荒れることも多いが、轟く海鳴りを聞きながら、海の色や風に作者ははっきりと季節が変わったことを感じている。「沖より春」とは、海を知る人ならでは。

花型に抜きし人参寒明くる        静岡県島田市   裕子 
 
 花の形に型抜きした人参はどんな料理になるのだろう。冬の季語である人参も、花の形にすれば赤い花、春らしくなる。寒明の嬉しさが伝わってくる。           
                    
水温むせせらぎの藻のながながと     広島県広島市   表 孝征 
 
 水温む流れに、長々と藻がゆれているという。「ながながと」という言葉から、寒さに身を縮めていた生き物がゆっくりと動き出すような気配や、のどかな水音が感じられる。

高校生の部(5月追記)
小林 美成子 選

〇カピパラの香箱座り残る雪        群馬県前橋市   日下部友奏
 春の夜を惣闇色の猫と居て         群馬県前橋市   日下部友奏
 花冷えやSFを読む中二階          群馬県前橋市   日下部友奏
林 さわ子 選

 カピパラの香箱座り残る雪         群馬県前橋市   日下部友奏
 花冷えやSFを読む中二階          群馬県前橋市   日下部友奏
 この度、高校生の日下部友奏様(群馬県前橋市)が「一般の部」に分類されておりました。深くお詫び申し上げますとともに、「一般の部」においての特選句入選をお慶び申し上げます。
第97回 令和5年 1月の募集
一般の部
小林 美成子 選

〇いつ訪ふも何か煮てゐる母の冬  千葉県佐倉市   林 昭太郎 
〇知らぬ道ばかり選んで探梅行   東京都西東京市  海老名 吟 
若冲の鶏春光へ飛ぶ構へ     愛知県北名古屋市 ゆう子 
 履歴書を三枚書きて寒北斗     岩手県大船渡市  佐藤 茂之 
 二陣来て白鳥の湖うごきだす    千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 欠航の赤き表示や雪しまき     千葉県千葉市   玉井 令子 
 雪催ひ膨れてきたるピザの耳    千葉県野田市   木村 鹿次 
 水底のごとき空あり冬の鳥     神奈川県川崎市  島  敏 
 凍雲の弔旗の如くたなびけり    神奈川県横浜市  東郷 佳人 
 寒灯やポストに刺さる不在票    岐阜県揖斐郡   横山 道男 
 物忘れしながら生きて年迎ふ    静岡県島田市   裕子  
 霜柱ジャックナイフの光り持つ   静岡県富士宮市  遠藤 英二 
 夜の底に山蹲る寒さかな      滋賀県大津市    杉浦 昭夫 
 梅早し厚き扉の鉄工所       滋賀県大津市   中村 治美 
 寒菊の咲くや薄き日重ねつつ    滋賀県大津市   中村 良一 
 風花や昼の新地に迷ひ込み     京都府城陽市   宇田川 成一 
 金箔の足指をまずお身拭い     大阪府豊中市   西田 順紀 
 打ち明けてよりの沈黙冬北斗    岡山県苫田郡   原  洋一

林 さわ子 選

〇産みたてのぬくみ諸手に寒卵   静岡県富士宮市  遠藤 惠子 
〇巻き鮨の渦の彩り春めける    三重県四日市市  後藤 允孝 
〇はつ春や新しき靴キュッと鳴る  奈良県奈良市    堀ノ内 和夫 
 いつ訪ふも何か煮てゐる母の冬   千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 欠航の赤き表示や雪しまき     千葉県千葉市   玉井 令子 
 雪催ひ膨れてきたるピザの耳    千葉県野田市   木村 鹿次 
 靄深き武甲の山や寒の入      千葉県松戸市    吉沢 美佐枝 
 翡翠へ望遠カメラ息白く      東京都葛飾区   本田 英夫 
 硝子戸に水陽炎や日脚伸ぶ     神奈川県川崎市  島  敏 
 手を繋ぎ兄と待つ浜初日の出    神奈川県川崎市  立野 音思 
 竹小舞剥き出しの壁冬ざるる    神奈川県横浜市  龍野 ひろし 
 骨壺に納まりし父鳥雲に      神奈川県横浜市  東郷 佳人 
 学友の訛り懐かし初電話      長野県岡谷市   倉田 詩子 
 枯芝や這ひ這ひの子が日をつかむ  静岡県島田市   裕子 
 淡き日の当たる冬田を耕せり    静岡県富士宮市  遠藤 英二 
 ぺん皿にクリップの山風光る    愛知県北名古屋市 ゆう子 
 柔らかに地を這ふ日差し花菫    三重県四日市市  後藤 允孝 
 金箔の足指をまずお身拭い     大阪府豊中市   西田 順紀 
 大凧の夕日に染まり湾の上     広島県広島市   表 孝征 
 退院の朝冬草の眩しさよ      中華人民共和国  楊 明枳 
特選句 選評
小林 美成子 

いつ訪ふも何か煮てゐる母の冬      千葉県佐倉市    林 昭太郎 

 実家の玄関に立つと懐かしい煮物の匂いが。家に戻ってきたという感覚を覚える瞬間である。何時もまめに煮物をして、コンビニ弁当とは無縁の母の慎ましい暮らし。下五の「母の冬」が良い。

知らぬ道ばかり選んで探梅行       愛知県北名古屋市  ゆう子 

 山野に密やかに花をつけている梅には、何とも云えぬ趣がある。昔、梅を探り、低山の尾根を進んでいて鎖場に出て驚いた事がある。掲句の「知らぬ道ばかり選んで」は、探梅行の本質をついた措辞である。

若冲の鶏春光へ飛ぶ構へ         東京都西東京市   海老名 吟
 
 奇想の絵師、伊藤若冲。京都錦小路の青物問屋の長男という出自も面白い。
鶏を描くことを得意とし、有名な「群鶏図」などは、まさに「春光へ飛ぶ構へ」である。精緻で迫力ある若冲の鶏をよく捉えた句。
林 さわ子 

産みたてのぬくみ諸手に寒卵       静岡県富士宮市   遠藤 惠子 

 鶏小屋へ卵を採りに行く。冷えた手に卵をのせると、産みたての温みがあったという。
「諸手に」であるから、卵はひとつではなさそうだ。寒卵という特別な卵の滋味が、「産みたてのぬくみ」でさらに嬉しいものになったことだろう。  
          
巻き鮨の渦の彩り春めける        三重県四日市市   後藤 允孝 

 色々な材料を重ねて巻いた太巻きを想像させる。赤、黄、緑など、鮮やかな色が巻かれている様子を「渦の彩り」と表現。春景色のような楽しさだ。    
        
はつ春や新しき靴キュッと鳴る       奈良県奈良市   堀ノ内 和夫 

 新年を迎えるために買った靴か。履くと、キュッと鳴ったという。おろしたての靴の感触が伝わり、新しく始まる一年への期待や意気込みも感じられる。