主宰俳句
晩 涼
田島 和生
山羊の子に角の芽生えや草の花
午後からは湖へ雲足百日紅
力士逝きピアニスト逝き夜の蝉
ねむるとき蝶はさかしま星月夜
晩涼の六腑に沁むる赤ワイン
浅草2句
鳩散つて塔の天心雷一つ
空襲の焼痕今も青公孫樹
生前退位
天皇はやはり涼しく言ひ給ふ
同人作品評 山中 多美子
ローマ字の表札かすめ夏燕 吉田 泰子 ローマ字の表札が掛かる洋風の家を、爽やかな風にのって燕が飛来する。昔からこの辺りの暮らしに馴れている燕なのだろう。「かすめ」に飛翔のスピードが出ている。
短夜をドフトエフスキーよりカミュかな 海野 正男 ドフトエフスキーもカミュも人間の根本的な苦しみを描いた小説家である。どちらも難しい内容であるが、どちらかというと日本人的な考えに近いカミュの方がしっくりするのだろう。「短夜を」の「を」の働きに実感が伴う。
紅頬集 秀句佳句 田島 和生 主宰
氷屋の椅子に子猫の深眠り 古西 純子 大きな冷蔵庫から氷を出して商う氷屋は客もなく、静まり返っている。見れば、主人の椅子に小さい子猫が坐り眠っている。無防備で、表情も愛らしい。氷屋と子猫の取り合わせが異色で、のどかな光景を活写した。
以上、俳誌「雉」10月号より抜粋いたしました。