主宰俳句
男 比 良
田島 和生
鳰鳴いて雪の別れの男比良
鳥雲に比良のてつぺん雪少し
影さして春の鵜の群れ二重橋
うららかや小鰭(こはだ)つまみて浅酌す
鉛筆を削り揃へて日の永し
仏顔へ土筆の胞子放つかな
俯いて湖心へ流れ落椿
見えぬとも水はむらさき水草生ふ
同人作品評(三月号) 津森 延世
雀らの冬芽啄む爆心地 福江 ちえり 広島、長崎に落とされた原子爆弾により三十万もの人命や、ほかの命も犠牲になった。人間が引き起した愚行は、七十年を経ても拭い切れず悔恨は続く。無心に冬芽を啄んでいる雀を見ていると、なおさらである。
紅頬集の秀句佳句 田島 和生 主宰
梅二輪駆込寺に男下駄 後藤 かつら
駆け込み寺は別名縁切り寺。江戸時代、夫のことなどで苦しむ女が助けを求めて逃げ込んだ寺。鎌倉の東慶寺などが有名。梅がほころび始めた二月、寺の玄関を覗いたら男物の下駄があった。駆け込み寺に男下駄は似合わない。現代は妻から逃げ出したい男がいるのか、と思えば大変おかしい。俳句では、「駆け込み寺」の「け」と「み」を省略してもいい。
以上、俳誌「雉」五月号から抜粋いたしました。